シリコンバレー離れ?優秀な人材が流入するカナダにアメリカのハイテク企業が注目

世界的に有名なIT関連企業が拠点を構えており「ITの聖地」とも呼ばれているシリコンバレー。

世界で有名なハイテク企業やソーシャルメディア企業が拠点を構え、数多くのスタートアップ企業が存在します。

優秀なエンジニアや起業家が集まるシリコンバレーでの就職や起業を目指すエンジニアは数多く、世界中に大きな刺激を与え続けています。

現在、シリコンバレーエリアに拠点を持つ企業の多くが、アメリカの政治や経済などを背景に「シリコンバレー離れ」という現象が起きているようです。

本記事では、アメリカのハイテク関連企業がカナダへの動きを開設したニュースを紹介します。

多くの米企業がカナダへ進出。給与額と移民政策が主な要因

人事関連ソフトウエア企業Lever社のCEOのSarah Nahm氏は、2018年にアメリカ国内に第2番目の拠点の場所を探し始めました。

サンフランシスコを拠点とする同社は、アメリカ東海岸でのサービス向上を求めてオフィスの開設を目指し、ボストン、ニューヨーク、アトランタを候補地としました。

これらの候補地でも問題なく業務は機能することが見込まれていたものの、Lever社の拠点は別の土地に決定しました。
場所はトロントで、市の中心部となるウォーターフロントエリアから離れた場所。

CEOのNahmは、トロントの新技術分野を利用しようと考えたのです。

さらに、多様性の受け入れ、世界中からエンジニア、営業やその他のポジションを雇い入れることのできる国で拠点を設けたいと考えました。

アメリカに拠点を持ち不動産と投資事業を行うCBRE Groupが公開した技術人材に関するレポートによると、テクノロジー分野で最も急速に進化しつつあるマーケットがトロントであると指摘しています。

Lever社は、カナダにオフィスを開設した数多くの企業の1つにすぎません。

GoogleFacebookTwitterAmazonなどの大企業の多くは、カナダの大都市、またはオンタリオの技術的中心都市であるウォータールーにオフィスを構えています。

ウォータールーは、カナダのオンタリオ州南西部の都市である。人口97,475人。ウォータールー地域の一部である。ゲルフの西側にあり、トロントからは130km西方に位置する。

隣のキッチナーとひとつの都市圏を形成しており、「キッチナー・ウォータールー(K-W、KW)」と呼ばれる。ケンブリッジまで含めた都市圏(トライ・シティー、the Tri-Cityと呼ばれる)としては、約45万人の人口を抱える。

市内には理工系で有名なウォータールー大学がある。同大学を中心にカナダでも有数のIT産業が発達しており、ブラックベリー等が本社を構える。
引用:Wikipedia|ウォータールー(オンタリオ州)

一方、バンクーバーやモントリオールなどにオフィスを開設する企業もあります。

5月には、カリフォルニア州サンマテオに本社を構え、デバイスの追跡サービスを提供するTile社は、初の技術的な大型拠点をバンクバーに構え、生鮮品のデリバリーを行うPostmates社はバンクーバーでエンジニアと開発者の採用を行っています。

多くのアメリカ企業が国境を超える理由は、技術者の給与にあります。
サンフランシスコの技術系職種の平均年収が14万5千ドルなのに対し、トロントは10万ドルです。

しかし、最大の理由はアメリカ企業が、海外からの技術人材の採用が難しくなったことにあるようです。

2017年10月から2018年9月に発給されたH1-Bビザの数は前年に比べ10%減少しており、トランプ大統領の就任以来、ビザの発行は減少傾向にあるというデータを、国土安全保障省が公表しました。

H-1B (特殊技能職)
H-1B ビザは事前に取り決められた専門職に就くために渡米する方に必要です。職務が求める特定分野での学士あるいはそれ以上(もしくは同等の学位)の資格が必要です。雇用が特殊技能職としてみなされるか、あるいは申請者がその職務に適格かは USCIS が判断します。雇用主は、労働省に雇用契約の内容や条件に関する労働条件申請書を提出する必要があります。
引用:米国ビザインフォメーションサービス|就労ビザ

特別な技術を持つ外国人材に対し、アメリカ企業がサポートするビザの申請数が少なくなる一方、移民局もこのビザの承認数を減らしています。

2018年アメリカ政府が承認したH1-Bビザの数は33万5千件であり、前年の37万3,400件と比較して減少しています。

移民に関するシンクタンクであるMigration Policy Instituteのアナリスト、Sarah PierceはMercury Newsに対し、6月5日に「現政権は、H-1Bプログラムの使用を制限する戦略に積極的で、これらの取り組みはデータにも現れている」と語りました。

前述のLever社がトロントに第2番目の拠点を開設した理由の一つは移民制限でした。

さらにNahm氏によると「米国で働くことのできない、素晴らしい技術者が数多く存在」するのだといいます。

また、同社は企業サイズが理由で、H-1Bビザを申請できる人材にアプローチすることができませんでした。

いずれにしても、世界中から人材がトロントに集まっているようです。

カナダが行った移民政策

2017年ドナルド・トランプ大統領は、「buy American and hire American(米国製の物を買い、米国で雇う)」という大統領令を発行し、H-1Bビザは最も確かな技術を持つか最も高い報酬を受け取るものであるべきだと述べました。

米政府が移民に対して厳しくなった時期に、カナダは能力の高い技術者向けのビザ手続きの迅速化を図るプログラムを作りました。

2017年6月、カナダは「Global Talent Stream」というプログラムを開始したのです。

Global Talent Stream(グローバルタレントストリーム)により、確実な能力をもつ人材に対し、申請から2週間で就労許可を発給します。カナダのグローバルスキル戦略の1つの柱であり、企業が求める高いスキルを持つ人材を迅速に採用できるようにすることで、革新的企業の成長を支援することを目的としています。
引用:CanadaVISA|Global Talent Stream

これにより、コンピューターエンジニアリングやデジタルメディアデザインといったITやSTEM分野のビザ申請期間が10か月から2週間に短縮されました。

STEMとはScience, Technology, Engineering and Mathematics(科学・技術・工学・数学)を総称する言葉。

カナダ政府によると、このプログラムの開始から2019年1月の間で、1,000社以上のテクノロジー関連企業が、4,000人を超える外国人従業員を雇用したと発表しています。

カナダ政府はこのプログラムの開始は、アメリカ政府が移民規制を行ったことに直接関連するものではないと述べています。

カナダでは、IT技術者不足が顕著であり、今後2~3年の需要を満たすためには、200,000件の求人があると報じられていました。

カナダ情報技術協会のCEOであるAngela Mondou氏は次のように述べています。
「偶然、この需要とアメリカの移民に関する様々な施策にタイミングが合ったのです。そのため、我々は確実に恩恵を受けています」

実際に、彼女自身が起業したハイテク企業のMondou社は、このプログラムにより恩恵を受けました。

「間違いなく、人材がこの国に来るでしょう。実に刺激的なエコシステムになりつつあります。
カナダ国民として、我々も人材を惹きつける努力を続けています」

エコシステム(ecosystem)とはビジネス生態系。本来は生態系を指す英語「ecosystem」を比喩的に用い、主に情報通信産業において、動植物の食物連鎖や物質循環といった生物群の循環系という元の意味から転化して、経済的な依存関係や協調関係、または強者を頂点とする新たな成長分野でのピラミッド型の産業構造といった、新規な産業体系を構成しつつある発展途上の分野での企業間の連携関係全体を表すのに用いられる用語である。
引用:Wikipedia|エコシステム

アメリカ拠点の人事担当者と採用責任者405人に対し行った調査Envoy Global surveyによると、アメリカの企業ははカナダの魅力的な政策に注目しており、65%がカナダの移民政策はアメリカよりも有利であると答えています。

さらに回答者の35%は、カナダに人材を配置しカナダで外国人を雇用すると回答し、38%はカナダへの事業拡大を検討しているとも答えています。
21%は既にカナダに1か所以上、オフィスを開設していると回答しました。

生活コストが高額なシリコンバレーエリアを離れ、言語・時差ともにリスクの少ないカナダへ

アメリカ政府が移民を受け入れていたとしても、カナダを目指す技術系人材が増加していた可能性もあると言えるようです。

アメリカのテクノロジー業界には人材不足であり、何十万件もの求人があるにもかかわらず、コンピュータサイエンスを専攻する大卒の人数はわずか6万人に留まっています。

同時に、シリコンバレーは、生活コストの面でもさらに手の届かない地域になっています。

経済分析局によると、サンノゼ、オークランド、ヘイウッドなどのシリコンバレーエリアの物件は、アメリカ国内の大都市圏で最も高額です。

このエリアの住宅価格の中央値は100万ドルであり、対するトロントは85万ドルとなっています。

カナダ自体のテック業界も成熟してきました。Nortelなどのハイテク関連の巨大企業が存在し、ShopifyOpenTextHootsuiteといった国際的に有名になった企業の発祥地でもあります。

カナダの大学もこの分野の卒業生を増やしていますが、シリコンバレーのように、別の場所で技術を習得した後にカナダで起業する人も増えています。

サンフランシスコに拠点を持つTerminalのCEO、Clay Kellogg氏は移民は一つの要因であるものの、そのためにカナダへの動きが加速したとは思わないと述べています。

同社は世界中に技術拠点を持ち、外国人を雇用し、リモートでアメリカを拠点とする業務を行う事ができるようにしています。

「サンフランシスコやニューヨークの生活コストの高騰を考慮に入れ、これらの都市での雇用創出を考えると、需要と供給のバランスは崩れてしまいます。

ハイペースで成長している企業は、場所にとらわれず最高の人材にアプローチする必要があります」

Kellogg氏によると、Terminalが最初の海外拠点として選んだカナダでは、人材はアメリカと同じように優秀でした。

トロントの技術分野は広範囲にわたっている一方で、モントリオールはAIとマシーンラーニングに特化している、という特色があります。

バンクーバーはシアトルとサンフランシスコに近接しており、それぞれ3時間半のドライブと2時間半のフライトの距離であるため、多くの西海岸の技術オペレーション拠点になっています。

エンジニアと技術分野でフルスタックエンジニアやバックエンド開発者など幅広いポジションで241人を雇用したKellogg氏はこう続けます。

「カナダは都合がいいのです。言葉の壁は限定的であり、タイムゾーンも同じです。そして、移民に関しては先進的であり、企業にとっては魅力的です」

アメリカでは移民がさらに重要な問題になっており、トランプ大統領ははメキシコからアメリカへの移民の流れを食い止めなければ、メキシコの商品に5%の関税を課すと声明を出しました。

シリコンバレーに比べて迅速かつ視野の広い人材の採用が可能に

カナダにオフィスを開設する企業が増え続ける可能性が高そうです。

Nahm氏はトロントにオフィスを開設後、同種の企業が後に続くと予想しています。

彼女は60日の間で営業開発、ITサポート、ソフトウエアエンジニアなどの職種で20人の採用を行いました。

「サンフランシスコで同様の人材を雇用するには、関係の構築に3年かかったでしょう」

同社は今後、少なくとも30人の採用を予定しています。

移民政策は大きな動きの中では、一部の要因ではありました。

他の多くの点でも有益だったことが理由だったと、Nahm氏は述べています。

その1つは、企業がシリコンバレーから離れたいと考えている点です。

「人々の問題を解決するためにテクノロジーを駆使するはずの人材の視野が、狭くなりすぎてしまっています。

外側にも拠点を持つことは良いことです。トロントに真剣に向き合っています。

トロントという市場に多くの投資をしており、積極的な受け入れを見せている技術界に還元することを望んでいます」

  • カナダ政府は、能力のある技術者のためのビザ手続きを迅速化するべく、グローバルタレントストリームと呼ばれるプログラムを作った。
  • GoogleやFacebook、Amazonnなど多くの米企業が技術人材を求め、カナダにオフィスを開設している。
  • ハイテク業界は、特にAIなどの分野で、モントリオール、トロント、バンクーバー、ウォータールーへと進出している。

海外人材が流入しやすいカナダでなら、希望の企業への海外転職のハードルが低い可能性も

今回の記事から、移民政策、経済状況、多様性などの様々な要因により、カナダへの進出を果たす企業が増えていることがわかりました。

アメリカでのビザ発給のハードルが高くなった今、カナダへの転職は希望の企業に続く近道になるかもしれません。

視野が狭まってしまうことのないよう、世界に視野を広げてみると、常に変化を続ける世界的な流れの中で自分の進むべき道が見つかるでしょう。

Career Growth 編集部

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