未経験者が農業分野・農家に転職するためのポイントと方法

後継者不足問題などニュースで取り上げられる機会も多く、農業や農家の関心は高まっています。
都会を離れて田舎でスローライフを送りたいというニーズも高まっているので、農業を仕事にすることや農家に転職することを考える人も増えています。
ここからは未経験者が農業分野や農家に転職するためのポイントや方法を紹介します。
未経験者が農業分野・農家に転職するためのポイントと方法要約
- 後継者問題が深刻化しており、就農ニーズは大きくなっている
- 自身で農家を始めるには多額の資金を調達する必要がある
- 国の制度を利用すると資金を調達しやすくなる
日本全体の農業の現状
現在の日本の農業がどのような状態になっているのかを見ていきます。
国内農業の現状を理解して、農業を仕事にするかどうかを判断することが大切です。
日本全体の農業の現状
- 農業就業人口は減少を続けている
- 農業就業者の平均年齢も高くなっている
- 若い世代の新規就農者は増加傾向である
農業就業人口は減少を続けている
国内農業の最大の課題は、農業就業人口が連続して減り続けていることです。
第一次産業がメインだった戦後の時代との比較ではなく、2000年以降の数字で比較したとしても大きな変化があります。
農林水産省が公開している「農家に関する統計」を見ると、農家戸数が減少しているのが分かります。
また、同じく農水省の「農業就業人口及び基幹的農業従事者数」によると農業就業人口は2010年の260.6.万人から2019年の168.1万人と100万人ほど減っています。
農業就業者の平均年齢も高くなっている
前述した「農業就業人口及び基幹的農業従事者数」のデータによると農業就業者の2019年の平均年齢は66.8歳と高齢です。
これは農家営んでいる世帯の子どもが農家を継がず離農している「後継者不足問題」や、少子高齢化により純粋に若い世代の就業数が減っていることが原因です。
日本全体の農家数が減少していることは大きな問題になっており、国や自治体、農協などでも就農者が増えるような対策を行っています。
若い世代の新規就農者は増加傾向である
法人化して農業を行う経営体が増えていることもあり、農業就業者の平均年齢よりも大分若い世代の就農が増えています。
農水省の「新規就農者数」のデータによると新規雇用就農者は2013年の5.08万人から2017年の5.58万人に増えており、49歳以下の新規就農者数は2014年から2017年の4年間は連続して2万人を超えています。
自身のルートで資金や土地を調達し、農業で起業する人は2013年の約2900人から2017年の約3600人に増えており、国や地域が支援する動きが多くなっていると判断できます。
農業を仕事に関する基本情報
農業を仕事にするのであれば、どれくらいの収入になるのか、仕事をする上でどのような要素が必要になるのか押さえておくことが大切です。
ここからは仕事として農業を考えたときの基本情報を紹介します。
農業を仕事に関する基本情報
- 平均年収は500万円前後
- 後継者問題が深刻で就農ニーズは高まっている
- 就業する条件は「健康である」こと
平均年収は500万円前後
国内で最も多い「販売農家」の所得は年々上昇傾向であり、農水省が公開する「農業経営に関する統計(1)」によると2014年から2019年の5年間で456万円から511万円まで上がっています。
特に2017年・2018年は520万円を超えているため、農家に転職することで収入がアップする人もいます。
また、農業所得がメインであり、自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる農家を「主業農家」と呼びますが、2019年度の総所得は801万円です。
「農業は稼ぎにくい」と感じる人もいますがデータからも分かるように、経営の方法によっては所得を増やしていけます。
しかし、重要なことは主業農家の農業依存度(総所得に占める農業所得)は90%前後で推移していますが、販売農家の農業依存度は50%前後であるということです。
農業依存度が低いということは、農業以外の所得があるということです。
例えば、北海道の積雪が多い地域では、冬に作物を育てることはできないため、その期間は別の仕事をして収入を得ている世帯もいます。
農家に転職したとしても、農業だけで生計を立てるのは難しい場合もあるので、注意してください。
後継者問題が深刻で就農ニーズは高まっている
先程の表の通り、農家戸数は減少傾向であり後継者問題が深刻化しています。
「日本の農業人口の現状」のデータによると49歳以下の新規自営農業就農者の人数は、2014年の約13,200人から2017年の約10,100人にまで減っています。
この「新規自営農業就農者」は、実家の農家を継いで始める人が該当するため、後継者問題は深刻化しているといえます。
新規就農者が増えているのは、深刻化する後継者問題に対する具体的な施策や取り組みが増えていることが関係しています。
農業は厳しい仕事ですが、工夫次第で新規就農者として転職はしやすいといえるでしょう。
就業する条件は「健康である」こと
農業を始める前にどんな人が向いているのか把握することが大切です。
就業する必須の条件といわれているのが「健康」であることです。
多くの人がイメージする通り、農業の大半は肉体労働であるため体力がないと成立しません。
体調を崩して仕事ができなくなれば、大きな損失が生まれてしまう可能性があります。
また、天候や天災などによって予定していた収穫量を大幅に下回ることも予想されます。
計画的に仕事を進める能力や、被害が拡大しないように先手を打つ対応力、想定を下回ったとしても仕事を続けられる精神力が必要です。
農業・農家に転職するメリット
農業・農家に転職する際は、どのようなメリットがあるのか押さえておくことが大切です。
農業・農家に転職するメリット
- 頑張り次第で収入を増やせる
- 学歴は関係ない
- 規則正しい生活を送れる
- 食材に関する知識が増える
頑張り次第で収入を増やせる
農家の最大のメリットは頑張りや工夫がそのまま収入に反映される点です。
会社員の場合、職種によっては頑張った結果が収入に繋がらないことも多くあります。
土地を広げて単純に作物の量を増やすことで、手間は増えますがその分収入も増えます。
他にも需要が高まっている無農薬野菜や化学肥料を使わないオーガニック野菜など、単価が高い作物を作ることで売上を増やせます。
もちろん、新しい取り組みにはそれなりの苦労やしんどさが付きまといますが、収入に反映されやすいのは農業の大きな魅力といえます。
学歴は関係ない
農業を1人で行う場合、自身が経営者となるため学歴は関係ありません。
農業法人に転職し農業に携わる場合は、自身が経営者ではなく従業員になるため、場合によっては学歴などを重要視することもあります。
農作業のような肉体労働が中心になる求人の場合だと、法人であっても学歴が関係ないことが多くあります。
農業法人
農業法人とは、稲作のような土地利用型農業をはじめ、施設園芸、畜産など、農業を営む法人の総称。(農水省ホームページより)
規則正しい生活を送れる
農家の朝は早く、辛いイメージがありますが、基本的に日没後に仕事をすることはほとんどありません。
今まで都会の忙しく不規則なリズムで生活をしていた人であれば、農家に転職することで規則正しい生活を送れるようになります。
イメージしていた「スローライフ」とは違うかもしれませんが、農家になることで健康的に過ごすことが期待できます。
食材に関する知識が増える
農家になることで作物を育てながら、味・大きさ・形・色・生産量といった要素を常に考えるようになるため、食材としての知識も増えます。
自身が作物を消費する立場になったとき、美味しい食材を選べるようになります。
普段の食事の満足度が向上すれば、人生を通して大きなメリットになります。
また、食材に関する知識が増えていくことにより、作物を育てて販売するだけでなく加工して付加価値をつける選択肢も生まれます。
農業に携わっていれば自然と知識は身についていき、興味がある分野を追求していくことで、自身の農業ビジネスを発展させられます。
農業に転職するデメリット
農家に転職するなど農業を仕事にするメリットは多くありますが、同時にデメリットも多くあります。
農業を仕事にする前に、どのようなデメリットがあるのか把握することが大切です。
農業に転職するデメリット
- コストが非常に大きい
- 体力勝負である
- 制約される条件・要因が多くある
- 田舎の農業は人間関係が重視される
コストが非常に大きい
農業で生計を立てられるほど収入を得たい場合であれば、それなりの設備や機材を揃える必要があります。
作物を多く育てるためには、有効な土地も必要であり、これらを用意するコストは膨大なものになります。
全国新規就農相談センターの2016年度調査「新規就農者の就農実態に関する調査結果」によると、就農1年目に必要な費用の平均は569万円としており、そのうち機械や施設を準備する費用は411万円にも及んでいます。
さらに、新規に就農してから作物を育て始めても現金化できるまでに時間がかかります。
場合によっては1年から2年ほど無収入状態が続く可能性もあるため、余分に資金を用意することが必要です。
体力勝負である
農作業はハードな肉体労働であり、会社のように休みが決まっているわけではありません。
作物を育てる時期であれば、毎日仕事をするケースも珍しくなく、体力の消耗は激しいです。
さらに加齢とともに体力が落ちていけば、できることが制限され作付量も減ってしまいます。
近年では、農業の機械化によって人手をカバーしていますが、農作業を効率化できるような大型の機械は1,000万円以上するものもあるため、導入が難しいケースが多くあります。
機械化できない農家の場合は、体力の低下に伴う影響は計り知れません。
制約される条件・要因が多くある
農業は屋外で作業を行うため、天候や季節によって行動が制限されるケースが多いです。
例えば、農作業にとって「雨」は非常に重要な要素ですが、連続して雨が降り過ぎると気温が低下し、日光が遮られることで成長度合いに影響があります。
反対に、雨が降らず日照りが続くことによって枯れるかもしれません。
また、土中の水分が多い状態が続くと根が腐ってしまい枯れてしまうケースも多くあります。
天候はコントロールできませんが、収穫量に大きく関係するため自身の収入や生活にも影響があります。
農業は制約が多く、上手くいかないことも多いことが大きなデメリットになります。
田舎の農業は人間関係が重視される
農業を行うのであれば、農地の価格が安く農作業を行いやすい田舎などの地方を選ぶケースがほとんどです。
田舎のように閉鎖的なコミュニティでは人間関係が重視されています。
特に新規就農者は作物を育てる方法や、病気になったときの対処方法などが分からないとき、質問できる人が必要です。
また、作物が育ちせっかく収穫しても、販売するルートを確保していなければ売れません。
農業に関わる人は多く、地方では人間関係が濃厚であるため、地域の人と円滑なコミュニケーションを取ることが大切です。
農業で成功するためには、人間関係を構築することが大切であると意識することが大切です。
農業・農家に転職するときのポイント
農業・農家に転職するときに大切なことは心構えと準備です。
農家に転職する前に、必要とされるものを整理しておきましょう。
農業・農家に転職するときのポイント
- どんな農業をしたいのか明確にする
- 方向性にあった学習できる環境を探す
- 農業機械の免許を取得する
- 農地確保に関する法律を学んでおく
どんな農業をしたいのか明確にする
「農業」と一言で表現したとしても、その分野は多岐にわたります。
同じ作物でも、無農薬やオーガニック野菜など栽培方法によって価値やコストは変わります。
他にも野菜、果物など対象となる作物によって、気象条件や現金化するまでの期間なども違うため、あらかじめ興味がある分野と栽培のしやすさなど、条件が合致する作物を育てるのがおすすめです。
まずは、どのような種類の作物を栽培するか方向性を決めてください。
方向性にあった学習できる環境を探す
どのような作物を育てるか方向性が決まった後は、その方向性に合った学習できる環境を探すことが大切です。
栽培している途中で作物の調子が悪くなったり、病気になったりしたときに質問できる相手がいなければ、収穫するまで育成できません。
初めて農業をするときは、近隣の農家との人間関係を築き教えてもらえるようにすることが大切です。
しかし、ただ質問するだけでは相手のメリットが少ないので、地域の活動に参加したり、農作業を手伝ったりするなど地域内での信用を積み上げることも重要です。
農業機械の免許を取得する
現代の農業では、農業機械を使って栽培するのが一般的です。
例えば、トラクターを運転する場合、農地で利用するときに免許は不要ですが、道路を走行するときには大型特殊自動車運転免許や小型特殊自動車運転免許などが必要になります。
将来、どのような農業機械を利用するか分からないので、必要になりそうな農業機械の免許をあらかじめ取得しておくのがおすすめです。
農地確保に関する法律を学んでおく
これから農業をする場合は、まず作物を栽培する農地を確保しなければなりません。
農地を購入したり、借りたりする場合は、農地に関する法律である「農地法」で定められた要件を満たし、管轄する市区町村の農業委員会の許可を得る必要があります。
つまり、法律を把握していないと農地を確保することさえできないのです。
農地法による農地を借りる際に必要な要件
- 全部効率利用要件
- 農業生産法人要件
- 農作業常時従事要件
- 下限面積要件
- 地域との調和要件
許可申請する農地のすべてを効率的に利用して耕作の事業を行うと認められること。
法人が農地を取得する場合は、農業生産法人でなければならない。
農地取得後に原則年間150日以上農作業に従事すると認められること。
取得後の農地が地域が定める下限面積以上になること。
農地の取得後、地域の農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障が出ないこと。
農業・農家に転職するとき方法
農業・農家に転職するにはどのような方法があるのか紹介します。
農業・農家に転職するとき方法
- 国の制度を利用する
- 農業に特化した求人サイトを利用する
- 農業法人への転職を目指す
- 農家と繋がりがある企業に就職するのも選択肢の1つ
国の制度を利用する
先程の説明の通り、自営業として農業を始めるときは立ち上げの資金が多くなります。
この資金調達がネックになり農家を開業できないケースは少なくありません。
そこで国の制度を利用して資金を調達するのがおすすめです。
その制度は「農業次世代人材投資資金」というものであり、昔は「青年就農給付金」という名前でした。
この制度には大きく分けて「準備型」と「経営開始型」の2つあります。
準備型は、農業大学や法人などで研修を受ける就農希望者に最長2年間、年間最大150万円受け取れます。
経営開始型の場合、農業を始めて経営が安定するまでの最長5年間、年間最大150万円支給されます。
どちらとも利用することもできるので、事前に詳細を押さえておくことが大切です。
農業に特化した求人サイトを利用する
一般的な求人サイト・転職サイトにはさまざまな求人が掲載されているので、農業・農家に関する求人は見つけにくいです。
そこで、農業に特化する求人サイトを利用するのがおすすめです。
自分で農業を始める前に、農家の手伝いや農業法人で経験を積むのも重要です。
農業求人サイト「農家のおしごとナビ」
最近では、農業における超短期求人マッチングサービスである「シェアグリ」の実証実験を開始しました。
今後、正式にサービスを提供するようになれば、農業における人手不足解消に繋がり、新規就農を考える人も短期間だけ働くことも可能です。
農業の超短期求人マッチングサービス、スマート農業推進協会と連携し実証実験をスタート
農業法人への転職を目指す
自分で農業を始めるのは資金面や作物を枯らしてしまうリスクが高いので、一歩を踏み出せない人は多くあります。
農業に関わる仕事がしたい人、自分で農業を始める準備をしたい人は、農業法人の求人を探して応募してみるのがおすすめです。
農家と繋がりがある企業に就職するのも選択肢の1つ
まだ、会社を辞めておらず農家に転職しようと考えている人は、農家と繋がりがある企業に就職して情報を集めるのも有効です。
例えば、身近なところであれば、スーパーや飲食店などは農家・農協から直接仕入れていることも多くあります。
また、企業の数は少なりますが「種」を扱っている種苗会社に就職すると、農家との繋がりだけでなく、最先端の技術を習得できます。
理想の農業を行う覚悟を持って農家に転職しよう
農業・農家に転職するポイント
- 就農ニーズは増加傾向である
- 頑張り次第で収入を増やすことができる
- 農業を始める際のコストが非常に大きい
- どんな方向性の農業をするか決めておくことが大切
- 国の制度を利用するのがおすすめ
「都会を離れて田舎で生活したい」「人間関係が上手くいかなかった」「地元に貢献したい」と農業に憧れる人は増えています。
しかし、農業は自然を相手にする仕事なので、失敗するリスクは大きく、農家を始めるのに必要な資金額も大きいです。
農業・農家に転職する方法はいくつもありますが、まずは情報を集めて準備を万全に整えることが大切です。
自身の理想を追求し、デメリットになる要素に向き合う覚悟を持って農家への転職を考えてください。