産業に成熟はあるのか? | 思考の法則トレーニング⑮

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もうこれ以上発展の余地がないように思える業種で、どうやったら新しい風を巻き起こすことができるでしょうか?

その答えのひとつを、成功者に共通する行動様式「5Aサイクル」の中で見つけられるかもしれません。

ビジネス成功者に共通する「5Aサイクル」を詳しく読み解く

成功者に共通するビジネスプロセス「5Aサイクル」

  1. 顧客が抱える問題の「認知」(Awareness)
  2. 問題解決のための従来と異なる「アプローチ」(Approach)
  3. アイデアのスピーディな「実行」(Action)
  4. 実行結果の「分析」(Analysis)
  5. マーケットニーズに合わせた柔軟な「適応」(Adjustment)

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解答と解説をしていきます。
このシリーズを読んでいくうちに、あなたが求める「異なる視点」が見付かるかもしれません。

産業に成熟はあるのか?

あなたは、家電メーカーの生活商品分野の企画責任者だ。
情報家電などに比べると白物家電というのはある意味、市場も技術も成熟している。
何か新たな旋風を起こしたいと感じていたあなたは、会社のトイレでエアドライヤーに手を入れながら、ある商品のアイデアを思いついた。
一体、それは何のアイデアだろうか?
エアドライヤーに手をかざす図

ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか?

質問

A 会社や商業施設では一般的なエアドライヤーだが、一般家庭にはさほど普及していない。
 価格をおさえて、売りだせば、衛生面や管理コストが安いなどヒットするのではないか?
B 勢い良く空気を運ぶ技術をほかの分野に活かせないだろうか?
 成熟していると言われる白物家電業界でも、見落とされている課題やユーザーニーズはないだろうか?

ハンドドライヤーからヒントを得た「羽根のない扇風機」

みなさんも日常的にハンドドライヤーを使うことがあるでしょう。

手をかざすと数秒で手についた水滴を吹き飛ばしてしまう便利な機械です。
大量の紙を消費するより経済的で環境にもいいので、商業施設で普及が進んでいます。

ところで、ある企業のエンジニアは、自社のハンドドライヤーの狭い穴から勢い良く気流を吹き出す際に、「周りの風を巻き込むことによって気流が増す」ことを発見しました。

つまり、小さい気流でも勢いをつけて周りの気流を巻き込むこと、少ないモータの力や電力で、大きな風を作ることができることに気づいたのです。

そして、これを扇風機に応用できないか、と考えたのです。

これが後に、ダイソンの「羽根のない扇風機」の開発につながるのです。

その羽根のない扇風機はエアマルチプライアーといいます。

扇風機であれば真ん中に数枚あるはずの羽根がまったくなく、真ん中はなにもないリング状の輪があるだけです。

しかし、スイッチを入れるとあら不思議、輪から前方に向けて、風を送り出すことができるのです。

皆さんも、電器店で目にしたことがあるかもしれません。

このエアマルチプライアーは、羽根がないだけでなく、先ほどの「狭い穴から強い気流を出すと周りの気流が加わって、より大きな気流をつくり出す」しくみを使っています。

具体的には、全体の気流を100%とすれば、吹き出す気流はわずか7%で、残りの93%は周りの気流だそうです。
本来必要なモータを動かす労力の7%で済むわけですから、電気代もお得です。

また、通常の扇風機は、長い首の先に回転する羽根があるため、直立で安定するようにあえて重い台座がつけられています。
その点、このエアマルチプライアーは、重い台座も不要です。

ご存知のようにダイソンは、もともとは掃除機メーカーとして知られています。

その創業者であり、エンジニアでもある英国人のジェームズ・ダイソン氏が、紙パック交換の不要なサイクロン方式の掃除機を作ろうと思ったのがすべての始まりです。

そして、ダイソン氏は5年の歳月となんと5,127個の試作品を経て、サイクロン方式の掃除機が完成させます。

しかし、欧州ではなかなか受け入れられず、実は日本メーカーからサイクロン方式のライセンス料が手に入ったことで、ダイソン設立が実現したそうです。

原動力は「利用者の怒り」

そのジェームズ・ダイソン氏は、成熟化した家電領域の中で、いつも新しい革新的な製品を提供できる原動力を「利用者の怒り」だといっています。

普段の生活の中で私たちが、うまくいかないことがらに対して、怒りを持つ。

そして、それを解決するのが製品開発の原動力だと考えているのです。
最初のサイクロン方式の掃除機も、「紙パック交換が面倒だし、経済的でない」という不満から出発しています。

羽根のない扇風機が単にデザインの奇抜さだけでなく、市場に受け入れられたのも、日常的な不満の解消があったからに違いありません。

長らく扇風機というのはあまりにも長い間、技術革新が起こってきませんでした。

しかし、昔から「怒り」はあったはずですね。

たとえば、羽根が回ることで、子供が手を入れて危ないとか、羽根やそれを覆うカバーの部分の掃除が大変だとか。

あるいは、羽根を回すモータが重いため、それとバランスをとる台座も重くせざるをえないため、単純な構造の割に重量が大きいのがネックでした。

ダイソンのマルチエアサプライヤーは、それらの不満を解消した画期的な製品となりました。

あなたがビジネスクリエイターであれば、こうした日常的な怒りを見逃さないようにしたいものです。


書籍『Against the Odds』画像『Against the Odds / James Dyson』

軍事技術がお掃除に活かされる

ところで、筆者も数年前に国産メーカーの掃除機が壊れて、新しいものを買うときに、迷ったのがダイソンとお掃除ロボットのルンバです。

部屋の形状などを考慮して、ルンバは結局あきらめましたが、自走式で掃除をしてくれて、自ら充電チャージに戻る姿に愛らしささえ感じたものです。

ルンバを製造するアイロボット社は、その名のとおり、家電メーカーではなく、ロボット企業です。

マサチューセッツ工科大学で最先端の人工知能を研究していた3人の科学者、ロドニー・ブルックス、ヘレン・グレイナー、そして現CEOコリン・アングルにより1990年に設立されたロボット専業メーカーなのです。

同社は「Dull、Dirty、Dangerous(退屈、不衛生、危険)な仕事から人々を解放する」という理念のもとに、これまで数多くのロボットを開発してきました。

たとえば、軍事用ロボット。
人間に代わり、土の中に埋められた地雷を発見する爆弾処理ロボットをアメリカ政府が大量購入したのが同社発展のきっかけとなりました。

ルンバの、ゴミの多さを分析するセンサーもこの軍事技術を掃除に応用したものです。
アイロボット社では、そのほかにも人命救助、海洋探査、ピラミッドの発掘調査など、アメリカの国家プロジェクトをはじめ世界中で活躍するロボットを開発しています。

1997年にはNASAの依頼で火星探査ロボットも設計して表彰されましたし、日本では福島原発事故のときに同社のロボットが使われたことがニュースで取り上げられました。

つまり、お掃除ロボットは、そうしたロボット技術、人工知能の「掃除への応用」だったわけです。

イノベーションを起こすのは、いつも「外部から」

風をデザインするコアテクノロジーを持つダイソンと、ロボット工学をコアテクノロジーとするアイロボットが、掃除機という、何十年も続いた成熟産業でイノベーションを起こしていることは、大変興味深いですね。

そして、このイノベーションに主要プレイヤーであるはずの家電メーカーが加わっていないのはなぜでしょうか? ここに、本エピソードのポイントがあります。

1つは、固定観念です。固定観念や常識といったものが邪魔をすると、扇風機の羽根や、掃除機の紙パックを排除したい、といった顧客の潜在的なニーズ、ダイソン氏のいう「怒り」を見落としてしまいます。

家電メーカーのように普段近いポジションにいるからこそ、近視眼になり、根本的なニーズが見えづらくなっているのかもしれません。

素人目線の素朴な不満や怒りを再度、見直すことが重要でしょう

もう1つは、常識破りのソリューションは異分野にヒントがある、ということです。

ソリューションは家電向けであっても、利用するテクノロジーは従来のものとは異なる分野での技術がイノベーションを生み出します。

ダイソンは、気流をデザインするテクノロジー、アイロボット社はロボットや人工知能のテクノロジーのエキスパートです。

ビジネス構想力のヒント

  • 固定観念、業界慣習を捨てて、本来持っている利用者の「怒り」とは何かを考えてみよう
  • その問題を解決する方法は、ほかの分野にないか考えてみる
  • 異業種、自然界、普段あまり接点のない世界にヒントが転がっていないか、チェックしてみる

ビジネスに役立つキーワード「プロダクト・ライフサイクルライン(PLC)」

「プロダクト・ライフサイクルライン」図

PLCの4つのステージ

  1. 市場で認知されていく導入期
  2. 売上が伸び競合が出てくる成長期
  3. 成長の鈍化とともにシェアの争奪が始まる成熟期
  4. 撤退のタイミングをうかがう衰退期