粗悪製品でも低価格なら商売になるのか? | 思考の法則トレーニング⑯

the hustle and bustle of a street

国や地域によって、とるべきマーケティング戦略は変わってきます。

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解答と解説をしていきます。
このシリーズを読み進めていくうちに、あなたが必要としていた「ビジネスの視点」が身につくかもしれません。

粗悪製品でも低価格なら商売になるのか?

あなたの会社は、グローバル展開を行なう自動車メーカー。
市場の伸びがめざましい新興国に対して、装備をシンプルにし、値段を落とした車を輸出している。
ところが、新興国のベンチャー企業が走ること以外にほとんど機能らしきものがない、世界最安車を販売すると発表してきた。
上司は「今どきエアコンやパワステすらないような粗悪品、商売になるはずがない」と高を括っているが、あなたはこの製品の行く末をどうみるか?
自動車画像

ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。

質問

A 車は安全性、耐久性、操作性、居住性などを高次元で実現すべきもの。安いだけで飛びつくほど消費者もアホではない。
 それに、新興国だって金持ちが増え、普通に日本の車を買えるわけだから、今後も現状路線で間違いなし。
B 新興国は新興国ならではのマーケティング戦略で製品を生み出している。
 先行しているからといって、安穏としてられない。我々ももっと安い車を開発すべき。

ドアミラーも、ワイパーも運転席側のみ!

インドのタタ自動車が世界最安自動車ナノを発表したときには世界が驚きました。
販売当初の価格は10万ルピー。当時の為替レートで25万円と超低価格です。

1人あたりの国民所得が約3,500ドルと日本の約10分の1であることを考えると、日本人にとって150~250万円くらいの感覚で車が買えることになります。

それまでもっとも安い車はスズキと現地の合弁会社が生産する20万ルピーの車でしたので、タタ自動車のナノは、まさにインドの大衆車を目指した戦略的な価格設定だったわけです。

さらに驚いたのはその仕様。
ラジオ、エアコン、エアーバック、パワーウインドー、パワーステアリングはオプション仕様。
ワイパーやドアミラーも運転席側のみ。

富裕国にいると理解できそうにない、安っぽい仕様ですが、実はこの車が狙っているのは、自動車オーナーでありません。

インドはバイク保有数が1億5,000台ともいわれるバイク大国。
タタ自動車のターゲットは、バイク利用者なのです。

インドの移動手段、運搬手段のメインはオートバイあるいはオートバイを加工したオートリキシャーと呼ばれる三輪車です。

道路も舗装されていないところが多く、牛や家畜の間をすり抜けながら家族4人がバイクにまたがって危なっかしく往来する光景を見れば、バイクに代わる市民の足という想定のナノの仕様はもはやインドの大衆車としては十分な性能なのでは、と思えてきますね。

見直しが迫られる従来のグローカリゼーション

グローカル化(glocalization)は、全世界を同時に巻き込んでいく流れである「世界普遍化」(globalization)と、地域の特色や特性を考慮していく流れである「地域限定化」(localization)の2つの言葉を組み合わせた混成語である。カタカナでグローカリゼーションと書くこともある。
引用:https://ja.wikipedia.org/?curid=897136

ここで考えたいのは、企業の海外戦略です。
今回の例であれば、インド。
インドの人口は12億人を超え、少子化の進む中国を抜いてやがて世界一になると予測されています。

市場としては非常に大きいですが、1人あたりの購買余力は非常に小さい。

これを単純化すれば、100万円持っている人が1人いるのが日本だとすれば、1万円持っている人が100人いるのがインドということに
なります。

新興国のマーケティングは、これを考慮しなければうまくいきません。
特に、前述のとおり平均的インド人は日本人の10分の1以下の所得しかありません。

インフラの整備が遅れています。道路はガタガタ、牛やバイクで大渋滞、電気の安定供給もままならない状態です。
そんな国でモノを売るときに、先進国で培ったノウハウがかならずしも通用するとは限りません。

いや、むしろ失敗する可能性が高いでしょう。

もちろん、グローバル企業の多くは、地球規模で市場を考えています。

しかし、世界で売れる共通仕様の製品を開発し、エリアごとに若干のカスタマイズを施す「グローバルシンク、アクトローカル」が中心です。

しかし、実際はそうした先進国からの一方方向的なマーケティングではうまくいかないことのほうが多いのです。

いまだに多くの人が新興国の人々もやがて所得水準が先進国なみになるのであるから、「放っておいても人々が製品に追いつく」と信じています。

先進国で開発した製品の機能を少し落として、値段も安くして提供すれば、新興国で売れるだろうと考えています。

新興国で作り、先進国で売る逆の発想

しかし、世界戦略がうまくいっている企業は逆です。
製品が人々に追いつくべき」思想です。これまでと逆なのです。

すでに開発した製品の二次利用ではなく、現地のニーズに合わせて製品を開発します。

つまり、100万の製品を、機能を落として50万で売るのではなく、最初から市場が求める価格10万円で売れる製品を開発します。しかし、その際に機能も10%程度だと売れません。

簡素でも、十分な機能を果たす必要はあります。

だから、機能も50%、70%といったレベルが必要です。

そうすると、これまでの製品開発とは別の新しいイノベーションが必要になってくるのです。

先進国で求められる機能の70%を先進国の販売価格の10%程度で提供することで、新興国では爆発的に普及するでしょう。

インドだけでなく、中国、ロシア、ブラジル、インドネシアなどの市場は巨大で、未来の成長性はこれまでの先進国のものと桁違いです。

さらに先進国の伝統的な企業にとって脅威なのは、新興国向けに開発された製品の機能がやがて80%、90%と先進国の最新製品なみに上がっていくことです。

すると、最初は「粗悪だ」と見向きもしなかった先進国の人々でさえ、「コストパフォーマンスが高い」と評価するようになります。

先進国も含めた世界市場が、新興国向けに開発されたきわめてコストパフォーマンスの高い製品に塗り替えられていくのです。

つまり、先進国の高コストベースで開発したものを2次利用で、世界に販売するのではなく、超低コストで作らなければ採算のとれない新興国で、新しいイノベーションを興して製品をつくり、それをブラッシュアップして、世界を席巻していく。

この新興国発のイノベーションが先進国へと逆流する現象を、ダートマス大学のゴビンダラジャン教授らは「リバース・イノベーション」と名づけました。

新興国で生まれた技術革新や、新興国市場向けに開発した製品などを先進国に導入して世界に普及させるという概念。
先進国の技術や商品を新興国へ移転するという従来手法とは逆に、新興国から先進国へ逆流させるので、リバース・イノベーションとよばれる。
小型のドラム式洗濯機、耐用期間の長いトラクター、ガスで動く小型発電機など、中国、インド、中南米市場などで開発された製品や技術が世界中に広まる例が増えている。
リバース・イノベーションが重視される背景には、製品開発には不利な状況下で、なかば白紙の状態からこそ、斬新な技術や画期的アイデアが生まれやすいという考え方がある。
出店:コトバンク


書籍『リバース・イノベーション』画像『リバース・イノベーション』

途上国を制したものが世界市場を支配する衝撃的な戦略コンセプトは、世界の経営者に衝撃を与えたのです。

ところで、前述のナノですが、残念ながら販売は低調です。

当初の販売価格を大きく下回った理由は、発火事故、工場の生産不調などいろいろあるようですが、結局のところ、価格は10分の1にできたが、提供すべき機能は顧客の考えるレベルを大きく下回ったということなのでしょう。

それでも機能はしだいに向上するでしょうし、バイクを利用する1億5,000万人(推定)がやがて自動車に乗り換えるのは時間の問題です。

そしてインドの低価格大衆車で成功すれば、ほかの新興国をおさえることができるでしょう。

何度も言いますが、100万を持つ1人を狙うのではなく、1万を持つ100人を狙うのが新興国の攻め方の鉄則です。

その鉄則を理解している企業は、ナノが販売不振にもかかわらず、続々と低価格車を発表しています。

インド国内のオートバイ大手のバジャジも同価格帯の自動車を発表しました。

自動二輪から四輪に展開するあたりはホンダを想起させますね。

また、韓国の現代自動車や日産ルノーなども超低価格車について意欲を示しています。
また、新興国で成功するためには、その国の顧客の悩みを十分理解するマインドセットが不可欠ですね。

これまでの先進国の買い替え需要ではなく、買ったことのない顧客に商品を買ってもらう必要があります。

インドではスマート携帯が大人気

スマート携帯と聞くと、スマートフォンなの? それとも携帯電話?と混乱してしまいそうですね。

スマートフィーチャーフォンは、完全なスマホではないのですが、昔の携帯電話のような外観ながら、動画視聴やSNSなどの基本アプリが使える「準スマホ」のような存在。

回線は3Gを使用、画面は小さくカメラも最小限の機能のみです。

スマホに比べると破格とも言えるような価格がウリで、25ドルほどでインターネット環境が手に入るとあって、これまでインターネットに接続する機会を持たなかった新興国の人々が携帯電話から続々とスマートフィーチャーフォンに乗り換える現象が起こっています。

単価25ドルと超格安な値段とはいえ、潜在顧客も含めると世界で10億人のユーザ数が見込まれるためそれなりの市場規模といえそうです。

また、医療分野では、GEヘルスケア(本社は米国)がインドでポケットサイズのワイヤレス超音波機器「Vスキャン」を開発しました。

価格がパソコンを使う従来タイプの4分の1、軽さはなんと20分の1です。
携帯性と低価格により、高価な医療設備や検査機器の必要性をなくし、現場医療を利用しやすくしています。

これまた医療インフラが未整備なインドでは画期的なコンセプトの製品です。

インフラが未整備だから新興国でイノベーションが産まれる

新興国ではある種、イノベーションが起こりやすい環境があると言えるでしょう。

インフラや制度の未整備、既存の既得権益などのしらがみがないため、思い切ったことができるのではないでしょうか?
 
例えば、新興国では先進国ほど固定電話やPCが普及していません。

その理由として、固定通信網が整備されていないことが上げられます。

そのため、今は一足飛びに携帯電話やスマートフォンが大ブレイク。

先進国のように、これまでの通信網をどう活用するか、などの問題がないため、最先端の技術が採用されることが多いのです。

実際、インドに続々と製品開発拠点を築く企業が増えています。
ペプシコ、シスコシステムズ、IBMなど多くの世界企業が、主要開発拠点と幹部の一部をインドに常駐させ、新興国初のイノベーションに取り組んでいます。

先進国のお下がりを売りさばく市場ではなく、イノベーションによって、画期的な低価格で最先端の技術を提供する市場と考えるのが、新興国において成功する秘訣です。

ビジネス構想力のヒン

「新興国を制するものは世界市場を支配する」
しかし、そのための製品開発は、ゼロベースで見直す必要があるかもしれません。
1万を持つ100人を制するためには、新しいイノベーションが必要です。
しかし、やがてそのイノベーションは先進国をも飲み込んで、世界を支配することでしょう。

ビジネスに役立つキーワード「リバース・イノベーション」

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