居酒屋よりも儲かる高級フレンチの秘密 | 思考の法則トレーニング⑰

商品やサービスの価格設定はどのようにして行うべきでしょうか?

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解答と解説をしていきます。

高級フレンチより居酒屋が儲かる時代の到来?

あなたは高級フレンチレストランの支配人だ。味には自信があるが、1品は2千円以上する。
一方、道を隔てた個室居酒屋は、一品平均500 円以下。
最近は、顧客が居酒屋に流れ、金曜日の夜でさえ、回転率が悪い。
うちも低価格路線を打ち出すべきだろうか?
花と料理のイメージ画

ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。

質問

A 高級店と低価格店では低価格店のほうが仕組み化しやすい。
 仕組み化しやすければ、収益性を上げることができる。
 高級店であっても、同様のしくみ化を取り入れるべきでは?
B 最高級の食材を使い、高いホスピタリティを提供するためには、コストがかかるし、それで採算にのせるためにはある程度の販売価格が必要。
 むやみに低価格路線に同調すべきではない。

飲食サービスのKPI(主要業績指標)は?

飲食店において売上の方程式は、何と何の組み合わせでしょうか?
そう、客単価×客数ですね。

客単価が安ければ、儲けが少なくなります。
低価格でも収益性を高めようとすれば原価を抑えるほかありません。

それでは、次の問題です。
客数は何と何の組み合わせでしょうか? 
そう、収容可能人数×回転数ですね。

しかし、収納可能人数は店舗スペースに依存するものですし、スペースを増やそうとすれば、地代家賃や店舗構築のコストがかさみます。

飲食店において収益性を高めるためには、さきほどの掛け算から、客あたりの粗利を増やすか、回転数を増やすほかありません。

もし、同じ原価率で同じ収容人数の店だとすれば、高級フレンチが居酒屋なみの客単価で収益を得るためには回転数を数倍にする必要があります。

これは本当に実現不可能なのでしょうか?

従来、そんなことを考える高級レストランは皆無でした。
ところが、超高級食材なのに居酒屋なみの客単価×超高回転というこれまでの高級レストランにはないアプローチで、業界にイノベーションを起こした企業があります。

元ブックオフ創業者の坂本氏が設立した俺の株式会社(社名)が展開する「俺のフレンチ」です。

原価率45%で業界人ビックリの「俺のフレンチ」

俺のフレンチ」は、どの店舗も立ち飲み屋のような立食形式です。

ラーメン屋などを居抜きで借りるため大幅に出店費を抑えられる反面、店舗はあまり大きくなく、たとえば恵比寿店で50席程度です。
また、店内も簡素でお金をかけていません。

一方で料理のクオリティには人一倍こだわっています。
三つ星レストランのジョエル・ロブションなど超一流レストランから腕利きのシェフを採用し、キャビアやトリュフ、フォアグラなどの高級食材を惜しみなく使っています。

さぞかし、高いのかなと思いきや、一品480円からと超リーズナブル。

お酒を飲んでも客単価は3,000円程度ということですから、相当コストパフォーマンスの高い店です。
そのため、どの店も大人気で店の外まで長蛇の列となるくらいです。

通常のレストランの鉄則は食材原価を3割程度におさえるのが鉄則ですが、この店では惜しみない高級食材を使うため、原価率はなんと45%に達します。

ここにも料理の品質へのこだわりが感じられますね。

ここで、前述の飲食店の儲けの方程式を思い起こしてみましょう。
客単価が居酒屋なみに低いと仮定すれば、高級フレンチのように食材の原価率が高いビジネスで儲けようとすれば…、そうですね、顧客の回転数を上げるほか利益を確保する方法はありません。

しかし、通常の高級フレンチでは、夜の部で1回転すれば良いほうです。
2回転すればもはや大人気の店です。

一方で、俺のフレンチでは、客単価が低いため1日2回転では赤字になるそうです!
しかし、実際にはなんと夜だけで3〜4回転しているため、利益はしっかり確保できているそうです。

50席の店で4回転すれば1日200人が訪れるフランス料理の店ということになります。

坂本社長は、「どんどん原価を使い、それでも利益が出るなら、絶対負けないビジネスモデルができあがる」と自信を見せます。
超高級フレンチだけど、ビジネスモデルは居酒屋やラーメン屋、そういうアイデアのマッシュアップとも言えるでしょう。

エブリデー・ロープライスは、PR効率がよい

ここで、2つの価格戦略を説明しておきましょう。
1つは、ハイ・ロー戦略です。

ハイロー戦略とは、小売業における価格政策の一つ。価格を期間限定の特売などにより変動させることで消費者を集める。
引用:マネー辞典

キャンペーンや特売セールなど、目玉イベント時にチラシやクーポンなどを大量配布して集客する価格戦略は、通常時とイベント時の価格が異なり、常に値段が上がり下がりするため「ハイ・ロー戦略」と呼ばれます。

値段の下がるタイミングをその都度知らせなければならないため、別途PRコストがかかる点がデメリットです。

また、通常価格販売時は、利益が大きいとしても、特売などの集客時は利益率が下がる(もしくは赤字)ため、トータルとしての利益率は定価販売に比べてずいぶん低くなります。

身近な例としては、通常は高級レストランなのにお得なクーポンなどを発行して新規顧客を開拓し、その後は常連にして通常料金で利益を回収していくようなイメージを思い浮かべるといいでしょう。

しかし、実際には顧客にとって飲食店の選択肢は山ほどあり、クーポンを使っても通常時に訪れない客も多く、なかなかハイ・ロー戦略は簡単ではありません。

もう1つは「俺のフレンチ」のように常に安い価格で提供する戦略は、「エブリデー・ロープライス(EDLP)戦略」と呼ばれています。

EDLP(イーディーエルピー)は、Everyday Low Price の略で、特売期間を設けず、各商品を年間を通じて同じ低価格で販売する価格戦略のこと。
広告により消費者に特売を告知する必要が無いため、販促費の軽減が可能になる。また、特売期間中に利幅の小さい特売品のみが売れる事による粗利の低下を避けることが出来る。
引用:Wikipedia

この価格戦略は米国のウォルマートが採用したことで知られていますが、「いつ来ても安い」というブランディングによって、PRにお金をかけなくとも、時期に関係なく安定的に集客できるため、効率が良いとされています。

書籍『ウォルマートのグローバル・マーケティング戦略[増補版]』『ウォルマートのグローバル・マーケティング戦略[増補版]』

この価格戦略は、日本国内でも100円ショップ、ディスカウントストア、低価格のファミリーレストランやファストフード店など、いつ来店しても安い価格で商品やサービスを購入できることをアピールしたいビジネスで採用されています。

ただし、低価格でも収益率を確保するために、安く商品を仕入れ、低コストでオペレーションを行うことが必須となります。
100円ショップは中国から、ディスカウントストアはメーカーや倒産企業などの余剰在庫を、低価格のファミリーレストランは、契約農家や海外からの大量仕入れで商品原価をおさえています。

前述の「俺のフレンチ」では、商品原価は戦略的にけちらない方針ですが、オペレーションコストをおさえるために、居抜き物件で開店し、たいした装飾もせず、立食形式で顧客をラーメン屋なみに高回転させています。

ところで、これまでEDLP戦略は、ディスカウンターのような一部の企業の価格戦略と思われてきました。

しかし、今後は違います。前述の「俺のフレンチ」のように、今まではEDLPの存在しなかった領域や業界でも、新たなイノベーションによって次々にEDLP戦略のビジネスが誕生してくるからです。

もし、あなたが客単価1万円の高級フレンチのオーナーで、隣に「俺のフレンチ」ができたら、心穏やかではないでしょう。

おそらく、質の面での一層の差別化をするか、値段を下げるなどの、対抗策が迫られるはずです。

あなたのビジネスは超低価格と闘える価値があるか?

今までは低価格・低あるいは中品質と思われた新興国初の多国籍企業が、先進国の先端企業と同じような製品やサービスをどんどん出してくる時代になりつつあります。

価格もディスカウントどころではなく、数分の1という考えられないような価格で、です。

これまで新興国の企業とのバッティングは海外展開しているグローバル企業だけだ、国内でビジネスする分にはあまり考慮しなくてもいいだろう、と考えていた人は要注意です。

どの領域でビジネスするにしても、EDLPと立ち向かえる、あるいはあなた自身がEDLPで業界に風穴を開けるような立場になることを想定すべきです。

既存のビジネススキームや既得権益で商売が成立している場合は、それがある日突然、死を迎えるかもしれないという危機感を持つべきだと思います。

「もし、突然聞いたこともないような企業がやってきて、同じ製品を10%程度の金額で提供すると聞いたときに、自社はどうすべきだろうか?」と・・・。

EDLPと闘える千円でも売れるコーヒー

価格競争に巻き込まれないビジネスを作りたければ「どうすればコーヒー一杯に千円払ってもらえるか?」を考えるべきです。
これからは、普通の味、普通のサービスで、中途半端な500円という値付けのコーヒーのような商品が最も売り上げに苦労するでしょう。

コーヒーという機能、つまりコーヒー豆をグラインドして、お湯を注いで得られる「機能」に関して差別化するのは限度があります。

だからこそ、どんな風に、どんなタイミングで、コーヒーを提供すれば、普段チェーン店の100円コーヒーと同じ機能を千円で買ってもらえるか?
それが重要です。

それに明確な回答ができるのであれば、独自価格でもビジネスが成立する可能性はまだまだあるでしょう。

誰もが認めるエブリデー・ロープライスの100円コーヒーか、究極のクオリティやサービスに喜んで払う千円のコーヒーか。
機能と価値、これをしっかり見なおして、どちらの戦略でいくのかを決めなければいけません。

ビジネス構想力のヒント

これからは、いろんな業界で、イノベーションをおこして驚くような価格で、高品質なサービスを提供する企業が増えていくでしょう。
そんな中、あなたはどのような価格戦略をとるべきでしょうか?
あなた自身も革新的な方法で低価格戦略をとるのか、それとも
高付加価値で、顧客にとって値段の気にならないようなハイクオリティサービスを提供するのか?

ビジネスに役立つキーワード「EDLP(エブリデー・ロープライス)戦略」

EDLP戦略解説図

参考図書