見えるコストと見えないコスト | 思考の法則トレーニング⑬

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ビジネスでも生活でも、無駄なコストはできるだけ省きたいもの。
でも、コスト削減をしているつもりが逆に無駄なコストを生み出してしまうことが、あるんです。

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解答と解説をしていきます。
このシリーズを読み進めていくうちに、ビジネスに必要不可欠な何かを掴めるかもしれません。

見えるコストと見えないコスト

ある地域の配送業務を行うあなたの会社。
最近、顧客から、時間を指定して配達して欲しいという要望が増えてきた。

確かに、顧客にとっては都合がよいが、顧客に合わせることで無駄に配達回数が増えるのではないか?

顧客要望に答えて、時間指定サービスを開始すべきか?

ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。

質問

A 顧客の要望とはいえ、何度も顧客の指定時間に出動するのはコストが増える。
 顧客のリクエストに答えていったら、どんどん利益が減っていくのではないか
B 顧客が指定した時間に確実に配達できるなら必ずしもコスト高にはならないのでは?
 むしろ、不達になる回数が減れば、コスト安になるのではないか

宅配便の「見えないコスト」

宅配システムが高度に発展した現在の日本では、配達時間を指定できることは、珍しいものではありませんよね。

サービスというものは普及してしまえば、当たり前のことに思えますが、それが存在しない時代にはニーズに気づきにくいものです。
本当に人間の贅沢や利便性への欲求に限界はないものなんですね。

ところで、1976年に「クロネコヤマト」生みの親である小倉昌男氏が、周囲の反対を押し切って最初にこのサービスを成功させたときにも、冒頭の問題となっている「顧客の配達時間指定を行うべきか」という議論が巻き起こりました。

普通に考えると、余分に配達回数が増え、その分、無駄なコストが増えそうに思えるからです。

しかし実際には「見えないコスト」というものが存在していました。

それは、配達員がピンポーンと呼び鈴を押しても、出てこないという状況の時です。
配達員は何度も荷物を持って建物内に入り、呼び鈴を鳴らし、また不在票を記入してポストに投函して荷物を持ち帰らなければならない。

あえて時間指定制を取り入れることで再配達による「見えないコスト」を削減できるというわけです。

これは、大変な「見えないコスト」です。

もし、配達員が留守宅を回るためにかかっている時間に、確実に配達することができれば得られたかもしれない利益を失っているということになります。

機会費用は、最善の選択をしなかったため失った利益

問題のケースでは、顧客の時間指定を可能にすることで、1件でも配達があれば、そのために余計に出動するコストや時間指定に関わる業務コストが増えるように思えます。

しかし、不在によるロスが時間指定によって増えるコスト増を上回れば、結果として全体の生産性は増えるということになります。

配達員が無駄な呼び鈴を鳴らす回数を減らすことができれば、その時間を使ってもっと生産的なことに使うことができた。

これを「機会費用(Opportunity Cost)」といいます。

「機会費用」とは、その名のとおりコストの概念です。
ある行動を選択した場合に、最善の決定をしなかったために、逃してしまった利益のことです。

そのため費用ではなく「機会損失」とも言い換えられます

「機会費用/機会損失」は請求書で支払うような普通の経費とは違い、直接、目に見えて現金が出ていくわけではないので「見えない費用」と呼ばれるわけです。

しかし、こうしたコストは意識しなければ、なかなか頭に浮かんでこないもの。
世の中には、こうした見えないコストが山ほど眠っています。

モノやサービスを取引する時のコストは見えやすいのですが、いったんコストを払ってしまうと「その中身がどうであれ支出は同じ」という先入観が生まれてしまうからです。

実際、ヤマト運輸でも一見コスト高に思える時間指定サービスを提供することでトータルでは、配達の生産性を高めることになりました。

ある問題を議論するときに、その直接的な利益やコストだけを見るのではなく、全体のパフォーマンスに視野を広がることが重要です。
どこまでの範囲で成果を見るかというのはその人の度量を示す良い指標になりそうですね。

書籍『小倉昌男 経営学』画像クロネコヤマト創業者の『経営学 小倉昌男』

在庫切れ、空振りの営業など身の回りの機会費用

話を機会費用に戻しましょう。私たちの身近な機会費用として、どのようなものがあるでしょうか?

1つは、在庫切れがあります。
在庫があれば売れて利益が得られたのに、それができなかったというわけですね。

これもまた、目に見えて費用が出ているわけではありませんが、販売機会を最大限活かせなかったということを損失、つまり、費用がかかっていると考えるわけです。

私たちのビジネスにおいて在庫切れのような機会費用は、頻繁に起こっているはずです。

なるべく少ない回数で販売する、つまり販売効率が良いということは、機会費用を最小限にする=利益を最大化する、ということにほかならないのです。

もう1つ、身近な例をあげると、クライアント先に行って商品を案内したが、売れずにそのまま帰ってきたとしましょう。

営業担当者の同じ時間を使って、ほかの商品をついでに案内するとか、すぐ近くにあるクライアントを一緒に回ってくるとか、同じ時間を使ってできたかもしれない利益の機会を逃したことになります。

これも典型的な機会費用です。

機会損失を最小限にするビジネス

個人的な話をしますと、筆者が経営している会社は「機械損失を最小限にする」というコンセプトのもと、さまざまなオンライン・マーケティングの支援ツールを開発しています。

マーケティングに明るい人なら誰でも知っているように、一般的なウェブサイトでは、訪れたユーザのうち1%程度しか、購入、申し込み、問い合わせなどの成果につながりません。

リアルと違い、オンラインではショッピグカートに商品を入れたからといって、必ずしも買うわけではありません。

そして、100人の訪問者中1人が買ってくれるオンラインビジネスがあれば、逆に言うと99人は何らかの理由で買わないということになります。

この「買わない理由」を分析して、その問題を解決できるようなソリューションを提供すれば、ウェブサイトを途中で離脱していた99人中、数人あるいは数十人が「成果」に転換されるということになります。

100人集客するための広告費が100万円であれば、1人あたり1万円のコストがかかっているわけです。

しかし、その99%はロスになる! ということであれば、そこから成果に転換できれば、費用は変わらず、利益が生み出せます。

「機会損失」とは言い換えれば「宝の山」です

機会損失に着目すると、コスト削減だけでなく、大きな販売機会の拡大につながります。

たとえば、1つの製品しか案内しない営業員が、ほかの部署の製品の説明ができるようになれば、1回の訪問でさらに利益を伸ばすことができるでしょう(アドセルと呼ばれる販売手法です)。

また、2つの異なる事業部でお互いの顧客に対して、相手方の製品を案内することができれば、販売機会が格段に増えます(クロスセルと呼ばれる販売手法です)。

書籍『旅行会社のクロスセル戦略―勝ち組になりたければ“旅以外”を売れ!』画像『旅行会社のクロスセル戦略―勝ち組になりたければ“旅以外”を売れ!』

コストや利益の分析を行なう場合は、単純にその活動によって生まれるコストや利益だけを算出してはいけません(ヤマト運輸であれば、時間指定による出動コストだけを計算すること)。

その活動によって生じる作用・副作用を洗い出し、全体としての総コスト、全体としての総利益に換算できなければ、正しい判断は出来ないのです。

ビジネスクリエイティビティを発揮する際には、常に木と森の両方を見る目を養う必要があります

顧客や業務の現場で起こっていること、それが全体にどのような影響を与えるか、という2つの視点です。

ビジネス構想力のヒント

目の前のコストだけにとらわれないことが大切。
必ず、「全体としてのコストの最小化=利益の最大化」を視野に入れ、木と森の両方に目を配りながら、数字を分析する必要があります。
特に「機会損失」は、財務諸表や経費報告書からは、見つけることが難しい。
同じ機会を使って、最大、何ができたのか、という視点を取り入れるようにしましょう。

5Aサイクルに役立つビジネス・キーワード「機会費用 / 機会損失」

「機会費用 / 機会損失」図

参考図書