本当のライバルを見極めよ | 思考の法則トレーニング⑱

地球儀

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解説をしていきます。
今回がこのシリーズの最終回です。

本当のライバルを見極めよ

あなたは、航空会社の価格設定責任者だ。
この度、ライバル航空会社に対抗して、新しく近距離線を就航することになった。
ライバルには絶対に負けたくないが、価格をどのように設定すべきだろうか。
また、低コストオペレーションを実現するために、どんな手立てがあるだろうか?
飛行機イメージ画
ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。

質問

A 類似の路線の航空料金と同様か、少し安いくらいの設定で、ほかの航空会社からの乗り換え需要を狙いたい。
B 航空路線だけを比較するのではなく、あらゆる手段の交通手段の中で一番安くなるように設定したい。

100年企業を脅かしたもの

アメリカ大陸を移動する長距離バス会社といえば、グレイハウンズです。
1918年の創業から100年以上続き、3,100本以上の路線を持つ米国最大のバス会社です。

もちろん、アメリカ大陸は広大なので、移動時間を考えると当然飛行機が便利なのですが、運賃が高かったため、特に低所得者層にとってはなくてはならない移動手段となっています。

しかし、グレイハウンズは2001年、倒産してしまいます。

その原因となったのは、近距離格安航空会社サウスウェストの存在でした。

今でこそ、日本にも多くのLCC(格安航空会社)が就航していますが、その普及は世界的には随分遅れてのものでした。
日本でよく知られたLCCといえば、エア・アジア、ピーチ航空などがあります。
その内、エア・アジアが模倣した見本が、米国内の近距離格安航空会社サウスウェスト航空です。
また、LCCの中でも業績好調なピーチ航空は、経営方針で独自路線を貫いていますが、下で述べるようなサウスウェスト航空との共通点もいくつか存在します。

サウスウェスト航空は、米国近距離にフォーカスしているため、日本ではなじみの少ない会社ですが、LCCのビジネススタイルの基礎を築いた会社として知られています。

それまで、ほとんどの航空会社はハブ&スポークと呼ばれる、目的地がどこであれ、一旦、中心となるハブ空港を経由する路線を展開していました。
直接、出発地から目的地に行くことが難しかったのです。

そのため、ビジネスマンは自分で車を運転するか、長距離バスに乗るほかなかったのです。
しかし、仕事のために米国内の拠点を頻繁に移動するビジネスマンにとってこれは大変ですよね。

サウスウェスト航空の創業メンバー3人は、パブに集まり、紙ナプキンの裏にダラス、ヒューストン、サンアントニオと3つの都市名を書き、それらを直接、結ぶ線を引きました。

そして、「ハブ空港を経由せず、直接、出発地から目的地に飛行機で移動できる手段を作ろう」と誓ったのです。

そして、その運賃は同様の交通手段の中で最安値でなければならないと考えました。

なぜなら、サウスウェスト航空のライバルは航空会社だけではなく、自家用車や長距離バスだったからです。

超低価格の背景には、常識破りのコスト削減

サウスウェストは、その後、常識破りのコスト削減を行います。
空港では超短時間ステイで、とにかく稼働率を高めました。

航空会社にとって飛行機が地上にいる時間は「機会損失」です。


見えるコストと見えないコスト | 思考の法則トレーニング⑬

また、整備コストを抑え、なおかつ遅延が発生しないよう機体はすべてボーイング737に統一。
機内食やドリンクサービスを排除する代わりに、搭乗員にホットパンツをはかせて機内でパフォーマンスをさせました。
経費のかからないエンターテイメントを提供したのです。

コストをおさえて就航開始したダラス – サンアントニオ間の運賃はたった15ドルでした。
ライバル航空会社の62ドルに比べてはるかに安く、朝の会議に間に合うように正確にスケジュールされたフライトは、長時間のドライブにうんざりしていたビジネスマンの乗り換え手段としては、最適でした。

以来、サウスウェストは、9.11テロやリーマンショックなどで老舗の航空会社がバタバタ倒れていく中で、73年の創業以来、ずっと黒字を続けています。

グレイハウンズにとっては、まさか航空会社がライバルになるとは思っていなかったでしょう。

従来のやり方ではどうしたって、顧客の移動ニーズと予算に合うソリューションを航空会社が提供できるとは思っていなかったからです。

「新規参入」と「代替品」の脅威

ある日突然あらわれて、市場をかっさらうライバルは、必ずしも「同業」とは限りません。

ライバルを考えるときにもう1つ重要なのは、「競合」よりも「新規参入」と「代替品」です。

たとえば、朝、通勤通学の電車の中で、皆がピコピコやっているスマートフォンのゲーム。

ソーシャルゲームは、コンプガチャ問題で話題になったものの、基本は無料です。

従来のゲームは5,000円程度しましたし、携帯型のゲーム端末機を毎日持ち歩くのは一部のマニアに限られました。

そういった意味では、手軽にいつでもできて、しかも、無料ではじめられるソーシャルゲームに人気が移行したのは不思議ではありません。

ソーシャルゲームでは、ゲーム自体は無料ですが、ゲーム内で表示されるスポンサー広告や、ゲームの中で使うアイテムに課金します。

無料で始めたゲームであっても、継続的に楽しむためには仮想通貨を購入することになるわけです。

つまり、ほぼランニングコストがゼロに近いゲームを大量に配り、別の部分で収入を得ています。

売上高に対する営業利益率はガンホー・オンライン・エンターテイメントで28.1%、コロプラで26.8%(いずれも2016年決算)と驚くべき高収益モデルとなっています。

経産省の全業種売上高営業利益率調べによれば、製造業で4%、小売業で2.1%、飲食業で8.6%ですから、ソーシャルゲームのプラットフォームを提供するこのビジネスモデルの儲かり具合が半端ないことが見て取れます。

ところで、ソーシャルゲームの台頭で思わず足をすくわれたのが、ゲーム端末メーカーです。

WiiやDSを販売する任天堂は同年の営業利益は347億の赤字、PLAY STATIONを販売するSONYは934億の赤字でした。

果たして任天堂など従来のゲーム端末メーカーは、10年前に自分たちの最強のライバルが「電話機」になると想像できたでしょうか?
ゲーム機メーカー同士でしのぎを削り、ライバル視していると、まったく異なる世界からやってきた代替品という脅威が、すべての業界地図を塗り替えることがあるわけです。

しかし、これは航空会社やゲーム機メーカーに限ったことではありません。すべてのビジネスにとっての脅威と考えるべきです。

フリーミアムがあなたの主戦場を荒らしていく

あなたは「フリーミアム」という言葉を聞いたことがありますか?

フリーミアムとは、フリー(無料)ビジネスの一つ。無料のサービスを多数のユーザーに提供し、高機能または追加された特別な有償サービスによって収益を得るビジネスモデル。とりわけウェブ上では、95%が無料ユーザーであっても5%の有料ユーザーがいればビジネスは成立することから、「5%ルール」を基本としている。
引用:コトバンク

「ロングテール」で知られるクリス・アンダーソンが、Webサービスがもたらす新しいビジネスモデルとして打ち出したコンセプトです。
「フリーミアム」とは、基本サービスを無料としつつも、別の収入源でビジネスを成立させる形態のことです。

書籍『『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略 / クリス・アンダーソン』』画像『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略 / クリス・アンダーソン』

基本となるサービスそのものではなく、有料のプレミアム版や法人向けサービス、サービスで得た情報をもとに構築するデータベース、利用者に表示する広告収入、などこれまでと異なる収益構造を持ちます。

以前は、大勢の利用者に無料サービスを提供しようとすれば、複製コストや配布コストがかかりました。

しかし、クラウドが普及し、ネット経由でのサービス提供のコストが無視できるレベルまで下がったことから、基本サービスを無料にしても全体としてビジネスが成立することが実現したのです。

そして、今やフリーミアムは、前述のソーシャルゲームに限らず、広告、仲介サービス、ビジネスのアウトソーシングなど多岐に渡っています。

そのため、これまで数百万、数千万かかっていた専門的なビジネスでさえ、「無料」との闘いを強いられるようになっています。

いきなり新規参入者がやってきて、無料のサービスを展開したらどうなるでしょうか?
従来、同様のサービスを主戦場としていた企業にとっては、大きな脅威です。

機能的なものは模倣が容易ですから、機能以外の顧客価値、たとえば顧客に密着してかゆいところに手の届くようなサービスを行なうとか、関連分野を含めた総合的なコンサルテーションサービスを行なうとか、差別化が必須となるでしょう。

無料ビジネスや超低価格サービスと戦うためには?

ある商品やサービスを、別のものに乗り換える場合に、顧客にとっての手間や経費、心理的負担のことを「スイッチングコスト」といいます。

スイッチングコストとは、現在使っている製品やサービスを別の代替財に乗り換える際にかかる総コストのこと。新しい製品やサービスの性能が高く、価格的に魅力的であっても、導入の手間や時間、習熟に要する労力を含めたスイッチングコストが高ければ、容易に乗り換えはできない。
引用:コトバンク

「機能」だけを提供している企業は、このスイッチングコストが低いため、前述のような別の儲けどころを持つ無料提供会社が登場すると、立ちゆかなくなります。

乗り換えられないためには、顧客にとってのスイッチングコストの高い製品・サービスにする必要があるでしょう。

スイッチングコストの高いビジネスにするというのは、たとえば、他に乗り換えるのが不安になるくらい顧客から絶大な信頼を得るということであったり、顧客にとってのビジネス全体に深く関わり、単機能の価格差だけではなく、トータルパフォーマンスが高くなるようなビジネスを提供することだったりします。

代替品の脅威にそなえ、現在のビジネスを見直す場合には、そうした面を考慮に入れるとよいでしょう。

そして、これから新しいビジネスを生み出す機会に恵まれた人なら、自分自身が「代替品の脅威」になりましょう。

多くのビジネスでは、古くからあればあるほど、老朽化した設備、古い業界慣習、取引先とのしがらみ、などで「高コスト体質」になりがちです。

どうせなら、新しい市場はあなたの手で創りあげてはどうでしょうか?
業界に風穴を開けるような、イノベーティブなサービスを提供してほしいものです。

ビジネス構想力のヒント

・自分のビジネスにとってのライバルは誰ですか? それは決して、同業他社とは限りません。
 彗星のように現れて、格安あるいは無料でサービスを提供するような、あなたの視野にはまだ入っていない異業種のプレイヤーかもしれません。
・未来の「脅威」に備えるなら、既存顧客に容易に乗り換えられないようなスイッチングコストの高い顧客価値を提供することを肝に命じましょう。
・あなたが新規事業担当者なら、あなた自身が業界の「脅威」になってはどうでしょうか?

ビジネスに役立つキーワード「代替品の脅威と5F分析」

5F分析図