コスト削減さえすればいいの? | 思考の法則トレーニング⑭

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事業の業績がおもわしくない時、売れ行きが伸びない時、人は誰でもコスト削減に走ります。
でも、それだけでその後のビジネスは好調になるのでしょうか?

このシリーズでは、最初に2択の質問を出し、その後に解答と解説をしていきます。
このシリーズを読んでいくうちに、ビジネスを成功させるためにあなたが求めていた「何か」が見つかるかもしれません。

コスト削減さえすればいいの?

あなたの会社は、経営の悪化している自動車メーカーだ。
全国に製造工場があるが、3割は不採算だ。
このまま続けると、会社の存続が危うい状態だが、社内にはリストラへの抵抗勢力も根強い。
タイムリミットは差し迫っている。どのような再生計画を立てるべきか?
事業縮小イメージ図

ここで質問です。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。

質問

A 不採算工場は操業停止し、従業員は解雇。
 ランニングコストを可能なかぎり切り詰める
B 出費を減らすだけではスケールダウンになってしまう。
 工場閉鎖とともに新車をどんどん開発して攻めに出るべきだ。

V字回復のシナリオ

誰もが、合理的な判断ができない時があります。
「せっかく、頑張ってきたのに」という過去の経緯に目を向けてしまうと、未来に向けた正しい選択ができなくなることがあります。

大分昔の話になりますが、1999年に2兆円の借金を背負い、ルノーの傘下になった当時の日産も、まさに正しい判断ができない硬直状態でした。

採算割れの組立工場、余剰人員、コスト高の系列部品工場、様々な「しがらみ」のために、誰もバッサリと大鉈を振るうことができないでいたのです。

そんな中で、親会社のルノーCEOは日本人社長を解任し、懐刀のカルロス・ゴーン氏を送りこんできました。

最終的にはゴーン氏は日産を去ることになってしまいましたが、当時の状況下で、過去のしがらみに一切とらわれない人物にしかできない整理を行なうには、正しい選択だったと言えるでしょう。

その後の、日産のリバイバルプランの成功、V字回復については知られるところですが、ポイントはリストラだけではありませんでした。
リストラは確かに、短期的に収支のバランスを大きく回復させることができます。

日産のケースで言えば、リストラコストがかさみますが、翌年は、人件費や借入金の利子が大幅に減るため、ある意味V字回復することは、当然の結果だったのです。

実際、日産は、最初の年に7,500億円もの特別損失で膿を出しきった(=あえてV字の谷を形成する)後で、2,100億円のコスト削減効果(=V字の山)がありまし
た。

書籍『成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学』画像成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学

戦略の成功というよりは、しがらみのない外国人社長ならではの大鉈が功を奏したのです。

コスト削減は対処療法、根治のためには未来の投資

しかし、企業の競争力というものは、将来に向けてのもの。コスト削減だけでは、ビジネスの収益性はシュリンクしていきます。

シュリンクとは、市場などが縮小すること。または、データを圧縮すること。
用例:「シュリンクする市場に向けてアプローチするなら、もっと別の道を探すべきだ」
引用:https://ferret-plus.com/5165

企業活動の根本を思い出してみてください。

会社というのは、資本を手当し、足りない分は借入をして資産を築き、それで仕入れを行い、完成品を販売して利益をあげていく。
資産から収益を得て、さらに資本と資産を増やす、その拡大再生産がビジネス活動の基本です。

だから、資産の売却、在庫の圧縮は短期的にバランスシートを健全にしますが、それで終わりではないのです。

長期的には、収益の源泉となる資産をまた築いていなければならない、ということになります。

再編後の日産は、財務改善によって赤字体質から立ち直るのと同時に、新商品の開発を積極的に行いました。

リストラ自体は過去の負の遺産との決別。
確かに会社に暗く重い影を投げかけますが、未来への投資、すなわち新しい商品の開発があれば、前向きな雰囲気が生まれます。

これまでにできなかった新しいチャレンジの場を多数作り、そこに組織の壁に阻まれていた優秀な人材を配しました。

そして、サニー、グロリア、ローレルなど歴史ある日産ブランドを廃止する一方で、ティーダ、フーガなど新しいラインナップを次々に発表。

リストラ効果だけでない、収益力の回復と持続可能な将来への新しい資産を築いていったのです。

新ブランドなど問題児を積極的につくり出す

再編時の日産がやったことは、いわゆる「選択と集中」です。
「選択と集中」は、ヒト、モノ、カネといった経営資源を不採算部門から、高付加価値部門へ移動させることです。

書籍『「選択と集中」の戦略 (ハーバード・ビジネス・レビュー・ブックス)』画像「選択と集中」の戦略 (ハーバード・ビジネス・レビュー・ブックス)

ビジネスポートフォリオ分析でいえば、「負け犬(低成長分野かつ低シェア率、多くの場合赤字)」に分類される事業をたたみ、そこにかけていたお金や人材を「花形(高成長・高シェアで売上がどんどん伸びていく事業)」や「問題児(新規事業)」に向けていくということです。

リストラ、というと非常にネガティブイメージがつきまといますが、本来は、経営資源の再配分、組織の再構築であるはずです。

しかし、再配分の対象となるような新しいビジネスが芽吹いていないと、単なるコスト削減策で終わってしまいます

その後の日産は、「新ブランドの車」という問題児を自ら起こしつつ、不採算部門を整理した原資を配分していきました。

長期雇用で、人員もある種固定化している企業が多い日本では、常に新しいビジネスの器を用意し、資源の受け皿を作っておくべきです。

ビジネス構想力のヒント

コスト削減を考える場合は、同時に、削減で浮いたリソースを原資に、何をやるかを考えなければいけません。
そうでないと一過性のリストラで終わってしまいます。

常に、未来に向けた投資ができるような、新しいビジネスの器を用意しておくべきです。

また、「過去のしがらみ」に左右されない正しい判断が行えるように、事業ごとの成長レベル、全社内でのポジショニングを整理しておきたいものです。

ビジネスに役立つキーワード『選択と集中』

リストラクチャリング図