エイズ(HIV)感染を理由とした内定取り消しは違法|キャリアニュース

エイズ(HIV)感染を理由とした内定取り消しは違法

HIVウィルスといえば感染力があり、エイズ発症とともに人を死に追いやる恐ろしい病気と思っている方も多いでしょう。しかし近年では薬の開発が進み、もうそのようなイメージの感染症ではなくなってきています。

HIV内定取り消しで賠償命令=「告知義務ない」-札幌地裁

エイズウイルス(HIV)感染を申告しなかったことを理由に病院が就職内定を取り消したのは違法だとして、北海道の30代男性社会福祉士が、病院を運営する社会福祉法人「北海道社会事業協会」(札幌市)に、慰謝料など330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が17日、札幌地裁であり、武藤貴明裁判長は社会福祉法人に165万円の支払いを命じた。
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業務内容に照らすと感染の危険性は無視できるほど小さい

具体的には、服薬治療をしていればウィルスの数が劇的に減少し、体液からもウィルスが検出できなくなるほどの「検出限界以下」になります。そして患者がそのような状態になれば、もはや第三者に感染することもなくなると言われています。

当然HIVキャリアの患者自身も服薬治療をしていればエイズ発症をすることなく、一般人と同じような人生を送れます。

また、ウィルスの曝露後に感染を防ぐ薬や曝露前にあらかじめ予防として飲んでおく薬の開発も進んでいて、HIVの感染については以前のように大騒ぎする問題ではなくなってきました。

この訴訟の原告の男性もそのような状況の中で服薬治療を続けられている方でした。この男性が内定取り消しについて憤るのも無理はありません。

次に「社会福祉士」という業務内容についてです。ソーシャルワーカーとも呼ばれています。

介護などの経験がある方ならご存じだと思いますが、高齢者や子どもやハンディキャップがある方や生活に困っている方などと相談をしたり関係機関と連携をしたりして問題解決を促す職業です。

医師や看護師のように第三者と日常的に物理的接触をする業務内容ではありませんし、相談業務がメインなので仕事中に出血するようなシーンもないでしょう。

以上のように、服薬治療によって感染のリスクも極めて小さいことに加え、業務内容としても感染のリスクがほぼないために原告側の勝訴が言い渡されたわけです。

HIV感染に関する情報は秘密性が高い

次に論点となるのが応募者側のHIVに関する情報のプライバシーについてです。本件では、面接の際に持病があるかと聞かれた原告がこれを隠し、そのまま内定を得ました。

こののちに病院側が過去のカルテで原告のHIV感染を知り、「虚偽の事実を伝えた」として内定を取り消しています。

本件ではHIVについて触れられていますが、これはHIV以外についても同じことが言えるかもしれません。

長らく採用の現場で仕事をされている方は、持病を隠していたり、あるいは妊娠しているのにそれを告げなかったような応募者に出会った方もいるのではないででしょうか。

本訴訟では、このようなケースにおいて応募者が「虚偽の事実を伝えた」場合にそれを理由として内定取り消しできるのかという問題にも重なる部分が多いように思えます。

これにつき判決は採用の際にHIV感染を確認することは「特段の事情がない限り許されない」としたうえで「男性のプライバシーを侵害し違法」としています。

プライバシー権という文言が明記された条文はないのですが、憲法13条の幸福追求権を根拠にプライバシー権が認められると解されています。

かつては「私生活をみだりに公開されない権利」と理解されてきました。例えば芸能人などがプライベートな話題の記事を週刊誌に書かれるような場合です。したがって本件のような、プライバシー情報を公開していなかった場合は認められない傾向がありました。

しかし現在ではプライバシー権は「自己に関する情報をコントロールする権利」として定義されるようになってきています。

つまり、原告に無断で過去のカルテ情報を収集すること自体が、プライバシー侵害になりうるわけです。原告のHIVに関する情報のコントロールを侵害していることになるからです。

身近な例で言えば、ショッピングサイトでの買い物履歴や住所氏名年齢などの個人情報を勝手に第三者に販売するのは、自己の情報のコントロールを侵害していると言えます。だからこの侵害を防ぐために、外部企業へのデータ提供のオンオフがユーザー側でできるようになっているわけです。

次に、本訴訟の判例が採用の際のHIV確認について「特段の事情がない限り許されない」としていますが、この特段の事情とはつまり業務と密接な関連性を有する病歴と考えていただいてよいでしょう。

本件では上述の通りHIV感染と病院での社会福祉士としての業務遂行の困難性との因果関係は否定されています。したがって、確認すること自体が違法であり、HIV感染を告知する義務もないとしたわけです。

しかし、仮にその持病があったならばほぼ確実に業務を遂行できないと判断されるようなケースであれば、「特段の事情」と言え、持病の確認行為が問題ないとされるケースもあるでしょう。

この辺りはその職種の特性と持病の性質によってケースバイケースの判断になります。

以上HIV内定取り消し訴訟についてでした。まだ地裁の判決が出た段階なので今後の展開はわかりませんが、この判決でHIV感染に対する偏見が少しでも少なくなればいいですね。

この記事のライター

  • かな
  • 女性・38歳
  • 社会保険労務士

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