2020年から派遣社員も退職金支給|改正労働者派遣法のポイント解説

近年、働き方改革の影響で様々な関連法が見直されている中、2019年7月に厚生労働省は各都道府県の労働局長に対し「派遣社員に退職金支給を行う」といった趣旨も含まれる通達を出し、2020年4月の改正労働者派遣法の施行に合わせた一部企業で待遇の見直しが行われます。

令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について

一方、派遣元・派遣先となる企業にとっては、派遣労働者にかかる費用が増大することも予想されます。

今回の記事では、改正労働者派遣法のポイントを解説するとともに、退職金の支払いや各業界への影響などをまとめていきます。

改正の土台は「同一労働同一賃金」の大原則

2020年4月から適用される労働者派遣法の改正は「同一労働同一賃金」という原則に基づきます。

「同じ働き方や業務内容であれば、賃金も同じであるべきだ」という原則です。

従来、正規社員であれば基本給の他に賞与や諸手当、福利厚生などの待遇が確保されていました。

一方の非正規社員は、正社員との待遇の格差が明確であり、労働意欲にも影響を及ぼしていました。

こういった背景からも 「正規と非正規の不条理な待遇差をなくす」という機運が高まっていたのです。

同一労働同一賃金について、厚生労働省が特集ページを設けていますので、参考にしてください。

厚生労働省 同一労働同一賃金特集ページ

労働者派遣法改正のポイント

働き方改革を推進するための「同一労働同一賃金の原則」に従い、労働者派遣法が改正され、2020年4月に施行されることになります。

派遣社員など、正社員以外の働き方を選択しても待遇に納得して働き続けることを目指すための改正です。

この改正には大きく分けて3つのポイントがあります。

労働者派遣法改正3つのポイント

  1. 不合理な待遇差を禁止する
  2. 待遇に関して説明義務を強化する
  3. 行政による助言・指導の整備

改正のポイント1:不合理な待遇差を禁止する

改正労働者派遣法により、同じ企業で働いている正社員と派遣社員との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇に関して、不合理に差をつけることが禁止されます。

派遣労働者の納得感を考慮するため「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれか方式による待遇の確保が求められることになります。

それぞれについて詳しく見ていきます。

派遣先均等・均衡方式とは

一般的に、派遣社員の派遣先となる職場には正社員と派遣社員がいます。

派遣先の企業は派遣元に対して、比較対象となる正社員の待遇情報の提供をしなければなりません。

厚生労働省・都道府県労働局の資料より抜粋

比較対象となる待遇情報を元にして、派遣元は派遣社員の待遇を決定します。

その際に、均衡均等を確保するための「均衡」待遇規定と「均等」待遇規定に従う事が派遣元に求められることになります。

「均衡」待遇規定

業務内容や勤務期間に違いがある場合は、その違いに応じて払う。
賞与に関しては同一の支給額となり、貢献度に差がある場合は、その相違に応じて支給額を変更します。

「均等」待遇規定

同じ業務で、同じ期間働いているなど、働き方が同じであれば同一金額を払うということ。
役職手当や通勤手当に関しては、正社員と同一の支給額とすることが求められます。

労使協定方式とは

労使協定とは、派遣元における派遣労働者と使用者の間での取り決めです。

過半数労働組合(派遣先事業所の労働者の過半数を組織する労働組合)、過半数労働組合がない場合は過半数代表者(労働者の過半数を代表する者)と、派遣元事業主との間で一定の事項を定めた労使協定を書面で締結します。

そして、この労使協定で定めた事項が適切であり、かつ遵守している場合は、この労使協定に基づき、待遇を決定することができます。

この場合の待遇の決定方法を「労使協定方式」と呼びます。

厚生労働省・都道府県労働局の資料より抜粋

協定を書面で締結していない、協定に必要な事項が定められていない、協定で定めた事項を遵守していない、過半数代表者が適切に選出されていない等の場合には、前述の派遣先均等・均衡方式が適応されます。

施行のポイント2: 待遇に関して説明義務を強化する

2つ目のポイントは、非正規雇用者と正社員との待遇差があった際に、その内容や理由を事業者に対して聞くことができるということです。

正社員に払っている基本給や賞与、福利厚生は派遣社員にも適用させる必要があり、給与が異なる場合はその理由も必要になります。

今回の法律の改正では、待遇差の内容・理由等を説明する「義務」ということで強い規制が働きます。派遣社員が非正社員にとって、不利益となるような扱いを禁止しています。

施行のポイント3 :行政による助言・指導の整備

2020年4月から(中小企業は2021年4月から)始まる新法の施行に向けて、行政の助言や指導の整備も進めています。

立場の弱い労働者は、裁判を起こすだけでも費用がかむため、泣き寝入りをしてしまうことも少なくありませんでした。

何か問題が起こったときには、訴訟などの司法手続きではなく、当事者間の話し合いで解決できるよう、行政が双方の間を取りもちます。

これを「裁判外紛争解決手続(ADR)」と呼びますが、47都道府県の労働局でADRの対応ができるように整備されます。

「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります

平成30年労働者派遣法改正の概要より抜粋

派遣社員の給与は2020年からどう変わる?

2020年4月から、基本給だけでなく手当も含め、正社員と同レベルの待遇を確保する必要があることがわかりました。
ここではさらに、待遇のレベルや通勤手当の支給について解説をしていきます。

派遣先の企業の正社員と同レベルの待遇に

同一労働同一賃金の原則により、派遣社員は正社員と同じ仕事であれば、両者は公正な待遇を受けることになります。

派遣先均等・均衡方式をとる場合、待遇には、基本給だけでなく、ボーナスや役職手当、時間外労働手当なども含まれます。

ここでのポイントは、派遣社員の給料は、派遣元ではなく、派遣先の企業の正社員と同水準ということです。

つまり、周りの水準に合わせるということは、給与が上がることもありますが、給与が下がることも考えられるということです。

とはいえ、派遣社員の待遇改善を目的とした派遣労働法の改正です。

単に給与だけでなく、各種手当や今後のキャリアを見越して、自分の待遇を考えると良いでしょう。

通勤手当も同等に

基本給だけでなく通勤手当についても、同一労働同一賃金の原則は適用されます。
話し合いにより、以下のいずれかに決定をします。

通勤手当の決定方法

  1. 実費支給により「同等以上」を確保する
  2. 一般の労働者の通勤手当に相当する額と「同等以上」を確保する

7月の厚生労働省から出された通達によると、一般の労働者の1時間当たりの通勤手当に相当する額を一般通勤手当と呼び、時給換算で72円と定められています。

実費支給を選択した場合の計算例は以下となります。

所定労働時間が8時間×5日の場合の通勤手当の算出例

所定労働時間が8時間×週5日の場合、各月の上限額が12,480円(※)未満であれば、協定対象労働者の通勤手当を12,480円と同等以上とすることが必要。(※ 72円×8時間×5日×52週÷12月 = 12,480円)

上記の例の場合、事業所(雇用主)は、月に12,480円以上を交通費として支払うか、もしくは相当の金額を時給に反映すること(+72円)が求められます。

また、所定内労働時間1時間当たりに換算した額が「72円」未満である場合には、「一般の労働者の通勤手当に相当する額と『同等以上』を確保する」方式で決定します。

退職金の支払い方法3つ

派遣社員であったとしても、一定の条件を満たせば退職金を受け取れるようになります。

これまで退職金は正社員の特権のように思われていましたが、同一労働同一賃金の原則に則り、2020年4月からは退職金を受け取ることも可能となります。

派遣社員であっても経験が考慮されるため、長く経験を重ねれば退職金の金額も増えていきます。

ここでは退職金の受け取り方法に関して紹介していきます。
以下の3つの方法のいずれかを派遣会社との話し合いの上、決定することとなります。

3通りの退職金支給方法

    勤続年数などで算出する一般的な退職金制度として支給
    時給に上乗せする「退職金前払い」
    中小企業退職金共済制度への加入

勤続年数などで算出する一般的な退職金制度として支給

派遣労働者が退職金制度での支給を選ぶ場合、「派遣元が定めるの退職金制度」と厚生労働省の通達など、国が示す「一般の労働者の退職手当制度」などを比較し決定します。

この場合、「一般の労働者の退職手当制度」と同等以上である必要があります。

また、現在は退職金制度を持たない派遣元企業も退職金を支給しなくてはなくてはならなくなります。

時給に上乗せする「退職金前払い」

派遣労働者は、退職金に当たる金額を毎月の給与に上乗せして受け取ることも可能です。

具体的には、派遣労働者の退職金にかかる費用について時給換算し、派遣労働者の賃金に加算した金額を算出します。そして、同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準に退職費用分(6%)を上乗せした金額とを比較し決定します。

中小企業退職金共済制度への加入

中小企業退職共済制度(中退共)とは、中小企業のための退職金制度です。

事業者が中退共に毎月掛け金として一定の金額を納付し、社員が退職するときは、中退共から退職金が直接支払われる仕組みです。

この中小企業退職金共済制度に給与の6%以上で、加入している場合一般労働者と同等以上であるとみなされます。

2020年4月以降、関連企業の影響は?

労働者派遣法の改正に伴って、派遣社員の待遇の見直しがなされることがわかりました。

今回の改正の狙い通り、待遇が改善される派遣社員が出てくるでしょう。

しかし、見方を変えれば、派遣社員の待遇が改善されることで、派遣元企業をはじめとする多くの企業にとって、支出が大きくなることを意味します。

現在、企業担当者向けに、法改正に伴う実務セミナーなども開催され、この法令に関連する各企業が2020年4月に向けた準備に取り組んでいます。

改正労働者派遣法が企業側にどのような影響が及ぼされるかを解説していきます。

派遣元企業と派遣先企業の両方に対策が必要

一般社団法人日本人材派遣協会によると、派遣事業者の事業所数は2017年度で62,408カ所となっています。

経営基盤がしっかりしている派遣事業者もあれば、かなり小規模で行なっている会社も存在します。

今まで通勤手当の支給や退職金・賞与などの制度がなかった派遣事業者でも、支払いを行う必要が出てくるため、今までなかった費用が増え、経営が厳しくなることも予想されます。

派遣先は今回の改正により、事業経営に影響が出ないよう対策をとる必要に迫られるでしょう。

一方の派遣社員を受け入れる側の派遣先企業でも、人材派遣費の増加が予想されます。

そのため、正社員との違いを明確にすべく職務の見直しを行う、正社員数を削減するなど人件費で調整する、商品やサービスなどの値上げに踏み切る等、対策をとる企業が出てくるかもしれません。

派遣先、派遣元企業の双方に大きな影響を与える法改正であることは確かなようです。

IT業界の派遣にもメリットはあるのか

IT業界は従来より、一般の派遣社員とは異なる形態が存在していました。

正社員として派遣元に雇用されて別の職場に派遣される特定派遣や、専門的なSES(システム・エンジニアリング・サービス)と呼ばれ、専門的な人材をクライアント企業に派遣するという契約により派遣先にサービスを提供する、といった働き方です。

特定派遣は2015年9月の労働者派遣法の改正により、経過措置期間を経て2018年9月に完全に廃止されましたが、SESは数多く存在します。

現在、一般派遣ではなく正規雇用のSESとして派遣されている労働者は、無期雇用の正社員であるため、原則として派遣先の職場との同一労働同一賃金は適用されないことになります。

IT業界でSESとして業務を行っている人は、待遇に関して不明な点があれば、派遣元(雇用元)企業と契約や待遇について確認することをお勧めします。

改正労働者派遣法は派遣を取り巻く業界に影響を与えることになる

2020年4月から始まる改正労働者派遣法に関して、派遣労働者と派遣関連業界に与える影響を解説してきました。

一番のポイントは「同一労働同一賃金」の原則です。

派遣社員であっても、同じ業務内容や同じ期間の経験を重ねれば正社員と同一の待遇を受けることができるようになります。

さらに退職金等各種制度を持たない企業を通して派遣されていた派遣社員でも、原則として退職金を受け取ることが可能になります。

一方の派遣元、派遣先の双方は追加費用が見込まれるため、対策を講じる企業も出てくるでしょう。

働き方改革に関連する今回の労働者派遣法の改正は、派遣に関連する業界、企業全体に大きな影響を与えることになるりそうです。