就職氷河期世代支援プログラムとは?内閣府発表の内容と活用方法

ここでは2019年に内閣府から発表された就職氷河期世代支援プログラムについてご紹介します。具体的な内容と施策の方向性、そして問題点も併せてお伝えし、今後の展望と共にどのように活用すべきかもお伝えします。

就職氷河期世代支援プログラムとは?

2019年5月に発表された「就職氷河期世代支援プログラム」とはどのような施策なのでしょうか?まずその概要をご紹介します。

内閣府主導の施策

2019年5月に内閣府で「就職氷河期世代支援プログラム」が発表されました。今回の施策の特徴は、内閣府から出ている点です。それだけ就職氷河期世代への支援が重要であるという国の認識を示しているのでしょうが、同時に問題も孕んでいます。

この「就職氷河期世代支援プログラム」の概要は内閣府のホームページの中にあり、経済財政政策の下に格納されています。

就職氷河期世代への救済というよりは国の経済政策の一環として、発表された側面があります。

まさに『人手が足りない分野で正社員になってもらう』、そのための穴埋め要員として就職氷河期世代を活用しようとする思惑があります。

ただし「人手が足りない分野」は依然、ブラック企業等、労働環境に問題を抱えた産業や企業が多く、労働環境の改善を同時に進めなければ、また多くの無業者を繰り返し出してしまう危険があります。

単純な雇用の移動や充填策だけでは済まない一面があります。

誰のための施策か

無就労者、ひきこもりに悩む層を人手不足の産業に振り分けるのは、マクロ的に見れば確かに効率的です。

しかし、人手不足に悩む企業の中には、業務の生産性の改善を怠り、人材を安く使い捨てにすることで延命を図ってきた企業も少なからず含まれます。

また就職氷河期世代で無就労に陥った層の中にはかつてブラック企業に就労し、長時間労働や、残業代の未払い等に苦しめられ、心身共に疲弊し、働くことが不可能になった人もかなりの数います。

度重なる不景気のしわ寄せを受け、長時間労働の現場に立ち続けた経験者も多く、あえて再びそうした産業に戻り、再び正社員として働きたいとは思わないでしょう。

一方で後追い発表された厚生労働省の具体的施策や来年度の概算要求は内閣府の発表とは少しニュアンスが違います。

また今までと違った方針がいくらか見られます。今後の雇用の変化を決定していく要素も一部含まれますので、詳しくご紹介します。

いままでの就職氷河期世代への支援

就職氷河期世代への支援は、実は今までも複数行われてきました。その核となる制度が2011年に基金訓練を再制定した求職者支援でしょう。

雇用保険に加入できなかった人が基礎と実践コースに分かれ、3-6か月の訓練を受講できるようになりました。

                                引用元:厚生労働省広報サイトMHLWchannelより

また2018年に設置された長期高度人材育成コースは就職氷河期世代や子育てにより正社員の道を外れた女性が主な対象となり、最大2年の長期の実践的な教育訓練が受講でき、正社員雇用に必要な資格取得が目指せます。

このコースの特徴は過去に雇用保険に加入していたかが必ずしも問われない点です。かつてはハローワーク経由で補助金が出る長期の公共訓練を受講するためには、過去に雇用保険に加入していたかが求められました。

求職者支援制度は例外ですが、受講できる訓練もあまり数が多くありませんでした。その制限を外し、パート、アルバイトでの就労が中心だった原則45歳までの人も対象としました。

ダイレクトに就職氷河期世代を対象としていないまでも、2014年に行われた教育訓練給付金制度の改正も派遣労働など長期で不安定な職に就労していた層が一部対象となっており、会計、税理、介護福祉、看護師を含む専門的、実践的な教育訓練を受けることができます。

関連記事:教育訓練給付金の制度内容と支給条件・申請方法について解説

概要について

それでは今回の就職氷河期世代支援プログラムとはどのような施策なのでしょうか。一体どの点が今までと違っているのでしょうか。まず概要についてご説明いたします。

対象者

雇用環境が厳しい時期に新卒の就職活動を行った世代であり、希望する就職ができず、不本意ながら現在も不安定な仕事に就いている、または無業の状態にある現在30代半ばから40代半ばのいわゆる就職氷河期世代が対象です。

この中には「8050」問題の当事者、長期の引きこもりも含まれます

正規雇用を希望していながら不本意に非正規雇用で働く層は政府の統計では推定50万人、就業を希望しながら様々な事情により求職活動をしていない長期無業者であり、社会とのつながりを作り、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする層、いわゆる「ひきこもり」層は100万人程と算出されています。

その中から30万人を正規雇用に転換しようとする試みです。こちらは内閣府の発表を元にしています。

基本的内容

その後厚生労働省が発表した資料で基本的な要項として挙げられるのが、対象者の実態やニーズ調査です。必要な人に支援が届く体制を作るために、地方自治体とも連携を行い、サポート体制を築くとあります。

では具体的に何をするのでしょうか。

今までの不安定な職に悩む人や長期無業者、ひきこもり層への対策は申請式でした。

長期の無業状態にある人がハローワークまで出向いて、仕事を紹介してもらうという過程を辿ることを前提としており、ひきこもりになった人にはハードルの高いものでした。

今回の特徴はアウトリーチ、つまり公共福祉に携わる人自身が、サポートを必要とする人の元に出向くという方式を取ることです。そのための予算も取られています。

もう1つの今までと違う特徴が、地方再生と社会から孤立したひきこもりの人の輪の再生を重ねている点です。

地方自治体と連携してひきこもり状態にある人をサポートし、問題解決を図ろうとしているだけでなく、「地方へ人の流れ」を作り、リモートワークを利用して雇用を地方で産み出し、さらに地域密着型の産業を興そうとしています。

今までと違う点は?

  • 「8050」問題、ひきこもり層への具体的な支援に言及
  • 地方再生を含めた第一次産業(農業、漁業、林業)の新規ビジネスへの支援へ焦点を当てている点

施策の方向性

厚生労働省が発表した具体的な施策を詳しくご紹介します。この中には従来の施策を踏襲したものも含まれます

伴走支援型の就職相談体制の確立

支援対象者が相談窓口を利用する流れを作ろうとしています。

  • ハローワークに専門窓口を設置、専門担当者のチーム制によるきめ細かな伴走型支援
  • 地方自治体の無料職業紹介事業を活用したマッチングの仕組みを横展開

伴走型支援とは具体的には民間の転職エージェントをモデルに作成されたハローワークのキャリアコンサルティングシステムのことと思われます。厚生労働省の来年度予算要求では、キャリアコンサルティングの費用が項目に載せられていました。

地方自治体の無料職業紹介事業とはハローワークとは別物です。相談から就労準備、職業紹介、定着まで一貫してサポートする体制とシステムを指します。職業紹介に絞ったハローワークの業務より幅広く、定着後も見守るシステムです。

従来のハローワークのキャリアコンサルティングと地方自治体の職業紹介事業を組み合わせ、相談から定着まで一貫して見守るシステムを作る計画です。

即効性のある実践的な教育

  • 仕事や子育て等を続けながら受講でき、正規雇用化に有効な資格取得等に資するプログラムの整備
  • 短期間での資格取得と職場実習等を組み合わせた「出口一体型」のプログラムの整備
  • 人手不足業種等の企業等のニーズを踏まえた実践的な人材育成プログラム等の整備
  • 「出口一体型」のプログラムや民間ノウハウを活用した教育訓練・職場実習を求職者支援の給付対象とし、受講を支援

これらは、従来の求職者支援や2018年に設置された長期高度人材育成コースの範囲内の施策です。こちらを今後も強化するようです。

社会人インターシップを採用

  • 採用選考を兼ねた「社会人インターンシップ」の推進(従来のトライアル雇用を拡大)
  • 各種助成金の見直し等による企業のインセンティブ強化
  • 採用企業や活躍する個人、農業分野などにおける中間就労の場の提供等を行う好事例の横展開

「社会人インターシップ」は欧米でも行われている制度です。日本の場合、トライアル雇用制度がありましたが、もっと柔軟な雇用形態も取り込むのかは今後発表される施策で明らかになるでしょう。

従来と違うのは、第一次産業を含む、農業、林業、漁業が施策に入っている点です。転職先として農業を選択し、起業する人や自営の農家を始める人は農林水産省のデータでも年々増えています。

初心者が農業に転職、ITを利用して高品質の野菜作りに成功し、農家として成功した事例も見られます。Oisix(オイシックス)、株式会社ココノミ、株式会社坂ノ途中の事例もあり、この分野はベンチャーの起業も盛んで今注目を浴びています

民間ノウハウの活用

  • 就職相談、教育訓練・職場実習、採用・定着の全段階について、専門ノウハウを有する民間事業者に対し、成果連動型の業務委託を行う。ハローワーク等による取組と連動さす。

以前から行われていましたが、実際の訓練は民間の会社に委託されます。訓練が実践的なものになっているのか、実際に資格取得ができるのか、市場原理の働く民間の会社に今後も委託されるようです。

引用元:介護スクールアマテラスより

アウトリーチ(相談員や調査員の出張サービス)の展開

  • 潜在的な対象者に丁寧に働きかけ、支援情報を手元に届ける。また本人・家族の状況に合わせた息の長い継続的な伴走支援を行うため、地域若者サポートステーションや生活困窮者相談支援機関のアウトリーチ機能の強化、関係機関の連携を促進する
  • 断らない相談支援など複合課題に対応できる包括支援や多様な地域活動の促進、ひきこもり経験者の参画やNPOの活用を通じた、当事者に寄り添った支援

「8050」のひきこもり問題は支援が申請式であることが、必要な人へと支援が届かない原因であると指摘されていましたが、今回はダイレクトにこの問題に取り組むようです。地方自治体やNPOとも連携し、相談から支援まで一貫して行う計画のようですが、地方自治体と業務分担が縦割りにならないよう今後調整が必要かと思われます。

今後の展望~来年度予算から~

2019年8月末に新たに発表された来年度予算の細かな配分先を見ると、内閣府の発表とはまた違った厚生労働省自身が描こうとした「未来のグランドデザイン」が見えてきます。

「ひきこもり」、無就労者の問題は、単に仕事や生活の保障がない事だけではありません。社会と切り離され、人との繋がりもない孤独な状態に長期間置かれることは、その人が人間らしい生活を送り、幸福を見出す力を阻害します。

幸福度指数、生活の質(QOL=quality of life)を向上させるためにも、人とのつながりが必要とされるでしょう。

厚生労働省が描いた青写真は、ひきこもりに陥った人の人との繋がりを再生し、社会へ参加するきっかけを作ろうとするものです。アウトリーチ施策の次の一歩先に見えるものは、人口減少で衰退し、人の繋がりも減少し青色吐息の地方に人を呼び戻し、地域に根付いて生活してほしいという試みです。

いわば、欠けてしまったひきこもりの人の「人の輪」の再生を地方の再生と合わせようという試みであり、他の就職氷河期支援プログラムの施策と比べても来年度は多額の予算を農業、漁業での就労支援や自営への補助に当てています

単に長期の無業者を人手不足産業へ充填しようという以上の、大きな人の輪のリンクを作ろうとしており、「人の幸福とは何か」という厚生労働省の「哲学」が垣間見えます。

問題はこれらの施策が実効性を持ってなされるかです。また自治体との連携も従来の縦割り行政では効果は半減するでしょう。来年度の予算策定後、今後具体化していくであろう施策に注目が必要です。

問題点

ブラック企業の延命に使われないか

今回の就職氷河期世代に絞った施策や、ひきこもりに対して包括的なサポートを実施する旨に言及したことは大きな一歩でしょう。

しかし、人手不足の解消には就職氷河期世代を利用するだけでは足りず、企業側の改善も必要となります。

長時間労働のスパイラルに陥らない為にも、長時間労働に悩む分野の生産性の改善は必要とされます。柔軟な雇用形態も必要です。最低賃金の引き上げも必要でしょう。最低賃金を引き上げる為にも、人材の使い捨てに走らないよう生産性の改善はさらに必要とされます。

かつて長時間労働の産業や企業で就労していた人を退職に追いやった労働環境の改善とセットにならなければ、いわゆるブラック企業を淘汰することなく延命することになり、折角の施策も無為に終わりかねません。

今後の問題解決の展望について

農業や漁業への就労に予算を割いても、地方自治体と密接な連携を取らなければ効果的な施策は取れません。また地方自治体にも独自の問題や特色があり、一概に一律のプログラムが有効とは言えない部分があります。

また農業の分野も生産性の改善が至急の課題であり、就労人口の減少と共にIT化「スマート農業」への早急な転換が求められています。

厚生労働省が掲げる「地方に人の流れを作る」施策はこれからどのような有効な具体策が出てくるか。この部分で民間ベンチャー企業との協業ができるのかもこれからはっきりするのでしょう。

まとめ

厚生労働省来年度予算要求の概要

厚生労働省の来年度予算要求では以下の要項が記載されています。

引用元:厚生労働省資料より

また就職氷河期支援プログラムとは別に来年度の予算請求を見ると今後の厚生労働省の施策の方向性が見えてきます。長時間労働の是正、労働環境の整備だけでなく、最低賃金、賃金引上げに向けた生産性向上等の推進が掲げられ、医療・介護の分野でAI、ICTを利用した一部自動化の研究や計画に予算が割かれています。

かねてより指摘されていたパート、アルバイト、派遣を含む同一労働、同一賃金も検討課題に挙げられています。柔軟な働き方がしやすい環境整備を目指して労働環境の改善と共に生産性の向上が必要なことが指摘されており、今後具体的な施策が発表されるでしょう。

制度を利用する人のために

中央一極集中よりは、各地域に人口が分散化され、そこで孤立することなく人の輪を築き、共同体の中で生活を営み、社会に貢献しながら働くということは、今後の社会の在り方を考える上でも選択肢の1つでしょう。

厚生労働省の就職氷河期支援プログラムの来年度予算要求の中には、放送大学等リモートで学べる環境を充実させ、さらにリモートワークによる在宅勤務ができる環境を整えようとする流れがあります。

地域に密着し、第一次産業(農業、漁業、林業)に従事しながら、リモートで他の仕事をする具体的なモデルが作られようとしています。「副業」の産出と70歳までの収入の安定を図る青写真も作られ、収入の分散化と共に地域再生が目指されています。

今回の就職氷河期世代支援プログラムは従来のキャリアコンサルティングや教育訓練の拡充だけでなく、「8050」問題、ひきこもりへの具体的な対応策が含まれています。また雇用や収入の不安定さに悩む人のために、一歩先の地方再生を含めた雇用プランも含まれています。

今後数年かけて今までと違う施策が出てくる可能性は高く、特にUターン、Iターンを考えている方には有用な施策が出てくるのではないかと思われます。