2020年から派遣社員の賃金6%アップ|派遣法改正で同一労働同一賃金

2020年4月1日に派遣法が改正されることに伴い、派遣社員として働く人の待遇が変わります。

「同一労働同一賃金」を目指す今回の法改正では、特に賃金や退職金、交通費といったお金への影響が大きいのが特徴です。

では、今回の法改正で、派遣社員の待遇はどのように変わるのでしょうか。派遣社員が知っておきたい法改正のポイントと、法改正によるメリット・デメリットを紹介します。

2020年から派遣社員の待遇はどう変わる?派遣社員が知っておきたい派遣法改正のポイント

派遣社員として働いている人の中には、「派遣法が改正されるなんて知らなかった」、「改正自体は知っているけれど、詳しい内容は知らない」という人もいるかもしれません。

確かに、法律には難解な部分も多くありますが、派遣社員の待遇に関する情報は、派遣で働く人であれば知っておいて損はありません

ここでは、派遣社員として働く人が知っておきたい派遣法改正のポイントを、詳しく紹介します。

「派遣労働者の同一労働同一賃金」を目指す

今回の法改正では、「派遣労働者の同一労働同一賃金」が大きな目的となっています。

同一労働同一賃金という言葉は、ニュースなどで耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

これは、雇用形態にかかわらず、同じ仕事をしていれば賃金などの待遇も同じにするというもので、今回の法改正の柱となる考え方です。

現状では、正社員に比べて派遣社員の賃金は低い傾向にあり、雇用形態の違いによって待遇に格差が生じている職場がほとんどです。

今回の法改正で同一労働同一賃金が導入されれば、正社員と同等の待遇を受けられるようになり、働きに応じた賃金が得られることが期待されます

正社員との待遇差が是正される

これまでの派遣社員の待遇は、派遣元である派遣会社が決定していたうえに、待遇差を是正するための強制力が強くありませんでした。

そのため、派遣先の正社員と待遇に差があることが多く、不公平感を抱きながら派遣社員として働いていた人も多いのではないでしょうか。

今回の法改正では、正社員と派遣社員の待遇差を是正するために、企業にさまざまな義務を課しているため、派遣社員の待遇改善が期待できます

そのうえで、正社員と派遣社員の待遇に差がある場合には、その差が適切であるという合理的な説明が必要になります。

法改正後は、もし待遇差に不公平感を抱いても、待遇差の内容や理由についての説明を事業主に求められるようになるので安心です。

では、具体的に待遇はどう変わるのでしょうか。派遣社員の待遇が変わる点を紹介します。

賃金・ボーナス

派遣社員の賃金は、「同一労働同一賃金」を基本原則として、同じ仕事をしている正社員の賃金を元に決定されるようになります。

これまで、正社員と同じ仕事をしていながら正社員よりも安い賃金で働いていた派遣社員は、法改正によって賃金が正社員と同水準まで引き上げられることが期待できます。

また、これまで派遣社員にボーナスが支給されることはほとんどありませんでしたが、法改正後は、派遣社員にもボーナスが支給されるようになります

ただし、ボーナスは正社員と同等の額にしなくても法的には問題がないため、正社員と同額が貰える可能性は低いかもいしれません。

とはいえ、これまで受け取れなかったボーナスが受け取れるようになるのは、大きな待遇改善だと言えるでしょう。

交通費・各種手当

特別の理由なしに正社員にのみ交通費が支給され、派遣社員などの非正規労働者には支給されない場合、派遣社員にも交通費を支給するよう見直すことが求められます。

また、住居手当や役職手当などの各種手当も、正社員と派遣社員の不合理な差を解消することが求められているため、派遣社員も各種手当を受け取れる可能性があります

退職金

これまで、派遣社員は退職金を貰えないケースがほとんどでしたが、法改正後は派遣社員も退職金を貰えるようになります

正社員と同様、勤務年数に応じて退職金が増えるので、働けば働くほど退職金の金額は増えていきます。

しかし、退職金を受け取る方法は正社員とは異なり、以下の3つの方法からどれか1つを選択することになります。

派遣社員が退職金を受け取る3つの方法

  1. 勤続年数から計算する一般的な方法
  2. 時給に6%加算する方法
  3. 中小企業退職金共済制度に加入する方法

それぞれの方法について解説します。

勤務年数から計算する方法

正社員と同様、退職までの勤務年数から退職金の額を計算し、計算する方法です。
退職金の基準は全国一律であり、水準は正社員と同等にするように定められています。

時給に6%加算する方法

退職時に退職金を受け取るのではなく、時給に6%を上乗せして受け取る方法です。
いわゆる「退職金の前払い」といったかたちで退職金を受け取ることができます。

中小企業退職金共済制度に加入する方法

「中小企業退職金共済制度」(中退共)という言葉は聞きなれない人もいるかもしれませんが、中小企業のために国が行っている共済制度のことです。
事業主が毎月掛金を納付すると、社員が退職するときに退職金を支払ってくれる仕組みで、金額は納付した掛金の月額と納付した月数によって決まります。
この方法の場合、勤務年数から計算する方法と同様、退職時に退職金を受け取ることができます。

福利厚生

待遇差の改善は、賃金などのお金だけでなく、福利厚生にも及びます。
福利厚生施設は正社員と同様に使用できるようにすることが義務付けられ、保養施設などの福利厚生も同様に使用できるように配慮することが義務になりました。

福利厚生施設とは

食堂や休憩室、更衣室といった、業務を円滑に行うために設置されている施設が「福利厚生施設」です。
法改正後は、派遣社員も正社員と同様にこれらの施設を利用できるようになります。

福利厚生の面でも、正社員との待遇差が縮まることが期待されます。

派遣社員の賃金の決め方が変わる

派遣社員の同一労働同一賃金を実現させるには、他の非正規労働者と比較して少し複雑なステップを踏む必要があります。

なぜなら、派遣社員の賃金を決めるのは派遣会社でありながら、賃金の水準は派遣先の社員に合わせなくてはならない
からです。

そのため、法改正後は新たに2通りの賃金の決め方が定められ、派遣会社がいずれかの決め方を選択することになりました。
それぞれの決め方を紹介します。

派遣先均等・均衡方式

派遣社員の賃金を、「派遣先で同等の仕事をしている正社員と同等にする」方法です。
派遣先が正社員の賃金に関する情報を派遣会社に提供し、派遣会社がそれをもとに派遣社員の賃金を決定します。

派遣先均等・均衡方式は、同じ職場で同じ仕事をする正社員と同等の賃金になるため、不公平感がなくなるというメリットがあります。
しかし、派遣先によって賃金が異なるため、派遣先が変わると給料が低くなってしまう可能性があるという点がデメリットです。

労使協定方式

派遣会社と派遣社員が労使協定を結び、「同じ地域で働く同じ職種の正社員の平均以上の賃金にする」方法です。
毎年6月から7月に発表される各職種の平均賃金をもとに、派遣会社が派遣社員の賃金を決定します。

労使協定方式を選択するには一定の条件があるため、賃金の水準が低くなる心配がなく、給料の安定が見込めるのがメリットです。
しかし、派遣先の社員と賃金の差が生じる可能性があり、派遣会社によって同じ派遣先でも賃金が異なる状況が発生しやすいため、同一労働同一賃金と矛盾するという点がデメリットと言えるでしょう。

同一労働同一賃金で派遣社員が受けるメリット

今回の法改正では、同一労働同一賃金によって派遣社員の待遇が改善されることが期待できます。
では、派遣社員には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
同一労働同一賃金によって派遣社員が受けられるメリットを紹介します。

給料が上がる

同一労働同一賃金で派遣社員が得られる大きなメリットは、給料の増加が見込まれることです。
賃金だけでなく、交通費や各種手当、退職金が新たに貰えるようになるため、手取り額が増えることが期待できます。

自分の働きに応じた給料が貰えるようになるため、仕事へのモチベーションが上がります。

福利厚生や研修が充実する

法改正後は、賃金だけでなく福利厚生や研修制度などの待遇も正社員と同等になります。

福利厚生

食堂や休憩室、更衣室などの福利厚生施設は、正社員と派遣社員の間で扱いを変えることが禁止されているので、これからは正社員と同様に利用できるようになります。

売店や病院、保養施設などの福利厚生は、派遣社員も正社員と同様に利用できるように配慮する義務が新たに課せられたため、より利用しやすくなることが想定されます。

研修・教育訓練

派遣社員を雇用しているのは派遣会社なので、本来であれば派遣会社が研修を行うべき立場にあります。

しかし、それぞれの職場によって求められる研修の内容は異なるため、派遣先が仕事の内容に研修を行うようにしていましたが、強制力が低かったことから十分な研修が行われないことが多いのが現状でした。

そのため、派遣会社はキャリアアップを目的とした総合的な研修を行い、派遣先の企業は正社員と同等の研修を行うよう義務付けました。普遍的なスキルと個別のスキルを同時に学ぶことができるので、キャリアアップが期待できます。

待遇に関する説明を求められる

これまでは、正社員と派遣社員の待遇に差があったとしても、待遇差の説明は義務ではなかったため、派遣社員が不満を抱きながら働くケースも少なくありませんでした。

しかし、法改正後は、派遣社員に対する待遇についての説明が義務化されるため、これまで不明確だった情報を派遣社員が知れるようになります

これまでも、賃金や福利厚生、教育訓練といった待遇に関する情報は説明の義務があったため、雇用時に説明されていました。法改正後は、「待遇差の内容・理由の説明」が新たに義務として追加されます。

待遇差の内容・理由の説明の義務

事業者は、非正規労働者から求められた場合、正社員との待遇差の内容や理由について説明することが義務となります。
一方で、派遣労働者は説明を求める権利があるので、待遇差に疑問が生じた際には説明を依頼することができます。

とはいえ、「説明を求めたりなんてしたら、迷惑な派遣社員だと思われて今後の仕事に悪影響が出そう」と心配している人もいるのではないでしょうか。

法律では、説明を求めたことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されているため、減給や契約更新の拒否といった不利益を受ける心配はないので安心してください。

同一労働同一賃金で派遣社員が受けるデメリット

同一労働同一賃金を目指す法改正では、派遣社員に賃金面や福利厚生で大きなメリットがある一方で、メリットを受けられない派遣社員がいることも想定されます

それだけではなく、法改正によって派遣社員がデメリットを受ける可能性もあります
「法改正後は賃金も上がるし待遇も良くなるから安心」と考えていると、思わぬ見落としがあるかもしれません。

同一労働同一賃金で派遣社員が受ける可能性のあるデメリットについて、詳しく紹介します。

待遇がほとんど改善されない可能性がある

派遣社員の待遇改善を目的とした法改正ですが、同一労働同一賃金が導入されても、派遣社員の待遇がほとんど改善されない可能性もあります。

なぜなら、法改正に備えて、企業側が「派遣社員と正社員の仕事の違いの明確化」に取り組む可能性が高いからです。

同一労働同一賃金のカラクリ

同一労働同一賃金では、正社員と派遣社員の仕事の内容に明確な違いがあり、その合理的な理由が説明できれば、待遇差があっても問題はないとされます。

そこで、「派遣社員の仕事内容に加えて、正社員は帳簿の作成や経費の精算を行っている」ということにすれば、派遣社員と正社員の勤務内容に差が生まれ、同一労働にあたらないため、待遇に差があっても問題ないと判断されるのです。

このように、あえて正社員と派遣社員の仕事の内容に差をつけ、派遣社員の待遇を改善しないケースが出てくることが予想されます。

正社員と派遣社員の仕事の違いを明確にする企業が増えると、その分法改正の恩恵を受けられる派遣社員も減ってしまうことが懸念されます。

手当が増えた分賃金が下げる事業者が出る可能性がある

法改正後は、派遣社員の待遇改善に伴い人件費が増加するため、企業の経営が圧迫される可能性も出てきます。

そのため、人件費を少しでも削減し、経営を改善するために、法律に触れない範囲で派遣社員の賃金を安くしようと考える企業も出てくると想定されます。

その結果、派遣社員に手当が支給されるようになっても給与全体が変わらないように手当の増額分だけ時給が減る可能性も考えられるでしょう

具体的な金額で見ていきましょう。

手当の増額を理由に時給を下げるケース

たとえば、月間160時間(8時間×20日)の仕事で交通費が一カ月あたり16,000円の場合を考えてみましょう。

この仕事の時給が1,500円だった場合、法改正後には「時給1,400円+交通費」に変更される可能性があります。
この場合、表面上は交通費が支給されていますが、実際に貰える金額は全く変わりません。

それどころか、残業をした場合にも時給1,400円で計算されるため、残業が発生するほど損になります

これに対して厚生労働省は「通勤手当等を支給する一方で、基本給を引き下げ、派遣労働者の賃金の総額を実質的に引き下げることは、改正労働者派遣法の目的に照らして問題である」としています。(労使協定方式に関するQ&A【第2集】 令和元年 11 月1日公表

よって、このような実質賃金引き下げがあった場合は、派遣元などに相談することをオススメします。

既に勤務している派遣先の時給が下がるケースはあまり起こらないと考えられていますが、特に新たな派遣先を選ぶ際には注意しましょう。

仕事内容が限定される可能性がある

前述のとおり、同一労働同一賃金が導入されると、派遣社員と正社員の仕事内容の違いを明確にする企業が増えると予想されます。

その場合、難易度の高い業務は正社員に限定し派遣社員には単純な作業しかさせないなど、仕事内容が限定される可能性があります

レベルの高い仕事を担当させてもらえなくなると、仕事の内容は簡単にはなるものの、スキルを身に着けることができず、長期的な目線では大きなマイナス要素になります

特に、派遣社員から正社員を目指している人の場合には、同一労働同一賃金によって正社員への道がより険しくなる可能性があるため、注意が必要です。

派遣社員が削減される可能性がある

これまで、正社員と同等の業務をこなしていた派遣社員は、企業にとってはいわば「正社員より安く雇えるお得な人材」でした。
しかし、同一労働同一賃金が導入されると、派遣社員にもその働きに見合った賃金や待遇を保証しなければならなくなり、人件費が上がります

その結果、派遣社員を雇うメリットがなくなり、派遣社員を削減する企業が出てくる可能性があります

派遣社員を守るために改正された法律が、むしろ派遣社員の仕事を奪う可能性もあるため、法改正後は社会の流れを注視する必要があると言えるでしょう。

制度を理解して法改正に備えよう

派遣社員の待遇改善を目的とした法改正ですが、実際に待遇改善に繋がるか疑問視されている部分も多くあり、派遣社員が手放しで喜べるものではありません。

キャリアプランを考え、損をしない選択をするためには、今後も法改正とそれに対する企業の対応を注視していく必要があります。

今後導入される制度の内容を正しく理解し、法改正に備えましょう。

2020年からの派遣労働者法改正については以下の記事も参考にしてください。

2020年から派遣社員も退職金支給|改正労働者派遣法のポイント解説

2020年の労働者派遣法改正で想定されるリスクとデメリット